現代ドイツを代表する名バリトンで、リート解釈・歌唱の第一人者であるディートリヒ・ヘンシェル。フィッシャー=ディースカウ亡き今、その正統な後継者と目されている名手が、「美しい水車屋の娘」の20年ぶりとなる再録音に臨んだ。言葉ごとに施される、音楽的かつ理知的な表情づけ。過剰な感情移入を排するからこそ、シューベルトの旋律の美しさと、ミュラーが詩の随所に織り込んだ音韻との、妙なる関係性が浮き彫りに。そして、まるで川のごとき、全20曲を通しての流れの良さは特筆もの。ピアノの岡原慎也も、絶妙のバランス感覚で饒舌さと抑制を操る、名アシストぶりだ。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2020年4月号より)
【information】
CD『シューベルト:美しい水車屋の娘/ディートリヒ・ヘンシェル&岡原慎也』
シューベルト:歌曲集「美しい水車屋の娘」
ディートリヒ・ヘンシェル(バリトン)
岡原慎也(ピアノ)
日本アコースティックレコーズ
NARD-5067 ¥2800+税