ジャズとクラシックが私の脳の中で行き来しているんです
クラシックのファンの中にはこんな思いを抱いた経験をお持ちの方もいるだろう。ジャズは好きだが、ジャズのピアニストの出す音があまり好きになれないと…。ジャズ・ピアノの音色は時に打楽器的で、クラシック的な豊かで洗練されたピアノの音が恋しくなる。ところがその両面をシームレスに切り替えながら、音楽を紡ぐことのできる稀有な存在がいる。それが細川千尋だ。
「音楽はひとつですが、例えば同じ曲のなかでも、自分のなかでジャズとクラシックの言葉遣いが明確に分かれていて、脳みその中で自然と行き来していることに最近気付いたんですよ」
クラシックにも取り組むジャズ・ピアニストは近年珍しくなくなったが、細川の場合はちょっと訳が違う。もっと本質的な部分でジャズとクラシックの音楽性を統合しようとしているミュージシャンなのだから。
そんな彼女が次の段階へと進むべく、紀尾井ホールで弦楽四重奏との共演を行う。弦をまとめるのは“王子”と称される新日本フィルのコンサートマスター西江辰郎。彼の演奏するカプースチンを聴いた細川が“この人しかいない!”と、熱烈オファーをかけたのだ。
「ジャズにはない呼吸感をもたらしてくれるので、自分の想像を超える音楽になったりするんです。また、本番の時には、息が上がって演奏の焦りに繋がってしまうことがありますが、西江さんは逆に、1音目から確実なテンポ感を音で伝えてくれて、共有できる方。本当に頼りがいがあります!」
他の弦楽器奏者も、西江が厳選したオケ首席クラスの真の実力者ばかり。そこに当代きっての人気ベーシスト井上陽介ら、流れに応じてモードが切り替わってゆく細川の空気感を感じ取って、彼女の求める音楽に臨機応変についていけるジャズ・ミュージシャンが加わるのだから、ぐうの音も出ない。1月の紀尾井ホールと4月の富山県民会館で披露されるこの理想的な布陣を、絶対に聴き逃すべきではないだろう。コンサートのテーマになるのはビル・エヴァンスとラヴェル。彼らもまたジャズとクラシックの橋渡しをしてきた音楽家だ。
「手数が多いよりも“俺はこれなんだよね!”という1音を弾くことに意味がある。そういうことをビルから学びました。その精神は彼のレパートリー以外の演奏にも、さらにはクラシックの感覚にも強く活きてきました。そしてジャズ・ミュージシャンはラヴェルに何か惹かれるんですよ(笑)。ジャズのトリオで『亡き王女のためのパヴァーヌ』を、そこに弦も加えて『ツィガーヌ』、さらに初めて挑む弦楽とピアノのために作曲する作品の初演。特別な夜を、楽しみにしていてください!」
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2020年1月号より)
細川千尋プレイズ・ビル・エヴァンス ラヴェル・ジャズ
2020.1/31(金)19:00 東京/紀尾井ホール
2/8(土)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
4/26(日)14:00 富山県民会館
問:テレビマンユニオン03-6418-8617
https://www.chihirohosokawa.com
※共演者は公演により異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。