角田祐子(ソプラノ)

ビューヒナーとリームが作り出す深淵な世界を歌う

C)Martin Sigmund

 「現代オペラを歌うとき、歌い手は曲を頭で構築するのではなく、現代音楽だからこそ自らが自由になり、テキストを感情とともに表現して初めて聴衆の皆さんの心に語りかけることができると思います」と語るドイツ在住のソプラノ、角田祐子が、1月の東京交響楽団の定期演奏会に再登場する。長年シュトゥットガルト州立歌劇場の専属ソリストを務め、2016年にドイツ宮廷歌手の称号を授与。東響定期へは、18年の飯森範親指揮のウド・ツィンマーマン《白いバラ》に続いての出演となる。

 今回曲目には、19世紀ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーの戯曲『ダントンの死』を題材にした作品が2つ含まれるが、アイネムの《ダントンの死》管弦楽組曲(日本初演)とともに取り上げられるリームの 「道、リュシール」は、『ダントンの死』第4幕の最終場面(ダントンとともに処刑された夫の亡骸を引き取りに行く妻リュシールの独白)をもとに書かれた、ソプラノと管弦楽のための作品である。ビューヒナーと言えば、ベルクの歌劇《ヴォツェック》の原作者であり、リームの代表作、歌劇《ヤーコプ・レンツ》はビューヒナーの小説を基に作曲された。

「リームの作品は、今回が初めてですが、この作品は、ベルクの影響を強く受けていると思います。声楽パートは2種類あり、11年7月のカールスルーエでの初演で歌ったソプラノ歌手はとても軽い声だったので、オリジナル版とは異なる旋律と音域で歌いました。私は、自分の声に合うように2つの版を混合して歌います。ビューヒナーの作品におけるリュシールは、革命の狂気の中で一見彼女が正気でないように見える——実は一番正気を保っていた人だったのではないかと私は感じています。だからこそ最後に殺されることに全く恐れを抱いていないのが興味深いです」

 近年はフリーランスとしてドイツを拠点に活躍の幅を広げる角田。19年はルツェルン音楽祭やベルリン音楽祭等に出演し、シューベルトとラッヘンマンを組み合わせるなど、同時代の作曲家を精力的に取り上げた。

「菅原幸子さんやピエール=ロラン・エマール氏といった超一流のピアニストとの共演はとても刺激的でした。ラッヘンマンの作品は、緻密に隙なく作られ、1ミリのズレも許されない中で、それでも自分なりの解釈をしっかり表現したいというところが、数学的に楽譜を捉えることが全くできない私には特に難しかったですね。でも、自分の理想とする演奏に辿り着き、だからラッヘンマン氏が気に入ってくださっているのだと(勝手に)思っています!」

 1月定期は飯森とも再共演となる。
「マエストロはテキストをとても大事にされる方で、ドイツ語でいうFarbenreich(色彩豊か)に作られた音楽は、スケールが大きくて繊細です。マエストロの要求を完璧に実現される東響のカラフルで温かい響きも忘れられません。いまから共演がとても楽しみです」
取材・文:柴辻純子
(ぶらあぼ2020年1月号より)

東京交響楽団 第677回 定期演奏会 
2020.1/25(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp