知られざる作曲家ヴィヴィアーニの魅力を伝えたい
スイス・バーゼルを拠点に、欧州と日本で活躍するバロック・ヴァイオリン奏者の朝吹園子が、17世紀後半にインスブルック宮廷で活躍したイタリア人作曲家、G.B.ヴィヴィアーニによる「教会と室内のためのカプリッチョ・アルモニコ」全曲(1678)を収録した初アルバムをOMF(オアシス・ミュージック・ファクトリー)からリリース。「とてもファンタジーに溢れた作品で、多くの可能性を秘めた曲集を、ぜひ味わってほしい」と、記念のリサイタルを東京で開く。
「17世紀の響きが、とにかく好き」という朝吹。「この上なく美しく、永遠の時間を感じます。教会の空間に、天まで届くほどの壮大さと神聖さ。逆に、人間のドロドロとした面を表現した劇的なものも…。器楽は歌と絡み、ヴァイオリンでも“歌う”ことと言葉の表現を一番に求められています。もちろん、一言で17世紀と言っても長く、様式も変化しますし、時に楽器や弓を替え、奏法も変えます」。
そんな中で、ヴィヴィアーニを選んだ訳とは。
「友人とインスブルック近辺の作曲家を話題にしている際、ヴィヴィアーニの名が出ました。そして初版譜で合わせをしてみた時、霊感を受け、ぜひ焦点を当てたいと思いました。イタリアからオーストリアへやって来た彼が、どれだけ活発に活躍の幅を広げていったのか。様々な個性と可能性を秘めたこの曲集には、その答えがある気がします」
その初版譜は、驚くほどにシンプルだ。
「17世紀には、与えられた音型を変容させ、装飾をつけながら演奏するのが習慣でした。どのようなテンポ設定にするか、そして、この単純な楽譜をどう発展させ、生命力を持たせられるか。特に、多様な個性に溢れるこの曲集では、奏者側に装飾のセンスも非常に要求されます」
さらに、「特に、カンツォーネやレチタティーヴォでは、ヴァイオリンで歌=言葉を表現する事が求められていて、そこで何かしらのメッセージを伝えるのも奏者の役目。聴いていただく方に、それを感じていただければ嬉しいです。装飾もたくさん入れて、生命力あふれる演奏で魅力を伝えられれば」と語る。
録音、ステージともに、西山まりえ (チェンバロ&バロック・ハープ)、懸田貴嗣 (バロック・チェロ) が共演。
「通奏低音は常に即興ですが、2人の息もぴったり。私の折々の気持ちや勢いまで掬い取って、繊細にそして大胆に反応してくださり、その一瞬しかない素晴らしい演奏を見せてくれます。通奏低音をぜひ聴いていただきたいです」
元々は、モダンのヴィオラを専攻。しかし、17世紀音楽に魅せられ、古楽の総本山バーゼル・スコラ・カントルムヘ。現在は、ソロ活動の一方、欧州の一線アンサンブルでも活躍。「いつかヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂で、歌やコルネットなどと共演したい。そして、モダン楽器の奏者とも、レパートリーを共有できれば…。ブラームスやシューマンのヴィオラ曲も、フォルテピアノと共に演奏してみたいですね」と夢を語った。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年12月号より)
朝吹園子 初ソロCD発売記念リサイタル
2020.1/10(金)14:00 19:00 近江楽堂(東京オペラシティ3F)
問:ムジカキアラ03-6431-8186
https://www.musicachiara.com/
CD『G.B.ヴィヴィアーニ 教会と室内のためのカプリッチョ・アルモニコ』
OMF
KCD-2075 ¥2546+税
2020年2月発売