熟成した深い音色美が引き立つドイツ王道プロ
1970年アメリカ生まれのニコラ・アンゲリッシュは、ピアノ好きの心を強くとらえるピアニストである。テクニックは安定し、長年熟成したレパートリーを組んで伝統的な演奏を聴かせ、しかも常に新しさを探求し、さらに弱音の美しさには定評がある。彼はパリ国立高等音楽院で学び、アルド・チッコリーニ、イヴォンヌ・ロリオ、ミシェル・ベロフをはじめとする音の美しいピアニストに教えを受けた。それゆえ、自身の響きも非常に美しい。
現在は国際舞台で幅広く活躍し、ソロ、オーケストラとの共演のみならず、室内楽にも意欲を示し、各地の名手たちと共演を重ね、日本では諏訪内晶子との共演も多い。彼はさまざまな器楽奏者からオファーが絶えない人気ピアニストなのである。
アンゲリッシュは古典派・ロマン派を得意としているが、今回プログラムに組んだのはJ.S.バッハ、ブラームス、ベートーヴェン、シューマンというドイツ・オーストリアの王道をいく作品。とりわけ彼の美音が生かされるベートーヴェンの「月光」と、シューマンの傑作と称される「クライスレリアーナ」が聴きどころである。ショパンに捧げられた「クライスレリアーナ」は物語性に富む8曲からなり、演奏の難しさでも知られる。アンゲリッシュの成熟し、バランスのとれた演奏は、聴き手を作品のすばらしさへと近づける。伝統に即しながら、新しい響きを追求する彼のみずみずしいシューマンに期待したい。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年7月号より)
2019.10/15(火)19:00 紀尾井ホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
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