チャイコフスキーの隠れた名作コンチェルトを聴いてください!
アレクセイ・ヴォロディンは、ロシア出身の情熱的でスケールの大きな演奏をするピアニスト。モスクワ音楽院でジョージア出身の名ピアニストであり、名教授であるエリソ・ヴィルサラーゼに師事し、常に作曲家の魂に寄り添う演奏を行う精神を伝授された。その演奏は非常に手首がしなやかで、完璧なる脱力が備わり、身体のどこにも余分な力が入っていない。それゆえ、とてつもない速さのパッセージも自然に楽々と奏で、音楽が推進力に富んでいる。
ロシアでも演奏機会の少ない第2番
そのヴォロディンが、現代作品をはじめ幅広いレパートリーを誇るフランスの指揮者、パスカル・ロフェと新日本フィルハーモニー交響楽団と共演、現在ではあまり演奏される機会のないチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番を披露することになった。
「確かに、日本のみならずロシアでも、チャイコフスキーのピアノ協奏曲といえば第1番とみなさんが思うようで、第2番は演奏される機会は少ない。でも、私はチャイコフスキー特有の交響楽的な要素があり、旋律も非常に美しく、すばらしい作品だと思っています。最初に楽譜を見たのはずいぶん前のことですが、そのときから偉大な作品だと思っていました」
だが、演奏するピアニストは限られている。
「なぜでしょうね。私はいま、各地でこの第2番のコンチェルトを演奏するようにしています。一度聴いていただくと、きっとすばらしさが理解できると思いますよ」
オリジナル版ならではの魅力
それでは、第1楽章からどのような曲想を備えた作品か解説してもらうと…。
「第1楽章はソナタ形式で書かれ、ダイナミックな楽章です。ピアノによる2つのカデンツァが出てきます。ピアニストが自由に弾く部分ですね。2番目のカデンツァは6〜7分あり、とても多くの要素が求められる難しい箇所です。第2楽章は、まずヴァイオリンとチェロの二重奏が登場し、ピアノが和していく。室内楽的なとても親密な音楽です。第3楽章は伝統的なフィナーレの形で書かれています。ホルンの響きに注目してください」
今回、ヴォロディンはチャイコフスキーの書いたオリジナルの版を使用することになっている。このコンチェルトはチャイコフスキーの弟子のピアニスト、アレクサンドル・ジロティが一部手を加え、削除した箇所もある改訂版を残していて、よく使われている。
「でも、私はオリジナル版で演奏したいのです。オリジナルの方が10分ほど長く、オーケストラにとっても新たな挑戦でしょうが、新日本フィルでしたら大丈夫。きっと新しい発見があり、チャイコフスキーの偉大さが理解でき、第2番のコンチェルトの良さがわかる演奏が生まれます。もっと頻繁に演奏したいと思ってもらえたら幸いです」
ヴォロディンがもっとも注意深く聴いてほしいと願うのは、第2楽章である。
「チャイコフスキーはシンプルで心打たれる旋律が多いのですが、この楽章もまさにそうです。私がピアニストとしてモットーとしているのは、常に高みを目指すプロフェッショナルな姿勢と真の芸術性をもち続けることのふたつですが、チャイコフスキーはそうした気持ちを鼓舞してくれる作曲家です。ぜひ、その思いを演奏から受け取ってください」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年3月号より)
新日本フィルハーモニー交響楽団
定期演奏会 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉 第21回
2019.4/26(金)、4/27(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp/