私にとって“音楽”とはフルートを演奏することです
魂を掴まれるような“凄演”とは、まさにこれだ。90歳にして、なお現役を続けるフルート界のレジェンド、ペーター=ルーカス・グラーフ。昨年8月に東京で開いたリサイタルのライヴ盤がリリースされる。バロックから現代に至る多彩な作品が、自在に吹きこなされ、「音楽は生きていなければ」との名匠の言葉を裏付ける。
「ステージに臨む私の目的は、音楽によって聴き手とコミュニケートすること。それは、昔書かれた作品も、昨日完成した作品であろうとも、違いはありません。音楽は常に“生きて”いなくてはならないのです」
研ぎ澄まされた音色のみならず、合間に聞こえる彼のブレスまでが、ひとつの音楽を構築してゆく。さらに驚くべきは、作品ごとの鮮やかな吹き分け。バロック特有の修辞学的な様式感、シューベルトの哀調を帯びたロマンティシズム、ルーセルの滑らかなスケール…。尺八に倣ったポルタメント的な奏法が特徴的な福島和夫の作品にあっては、日本人としてのアイデンティティを揺り動かされる思いにさせられる。
「様々なスタイルの提示も、私の目的の一つです。残念ながら、フルーティストには、それほど多くのレパートリーは与えられていません。ですから、なおさらに、私は様々な時代の音楽に精通しているのです。これには興味と知識、そして演奏経験が必要です。私はフルート奏者としては、とても若い頃に成功できました。私にとって、“音楽”とは“フルートを演奏すること”と常にイコールでした。私の母は歌手でしたから、彼女から影響も受けましたよ。だから、私は常に、フルートで人間の声のような表現ができるようにと心掛けています」
それにしても、誰もが彼に問いかけてしまうに違いない。これほど長く、第一線で活躍する秘訣とは。
「秘訣はありませんね。おそらく私の比較的健康的なライフスタイルと、先祖からの遺伝子に何らかの要因があるのかもしれません。ただ、1日に2回5分程度の短い運動を今も続けています」
そして、「私とフルートはいつも一緒でしたが、唯一の楽しみではありません。私は自然や読書や絵画、そして指揮などいろいろなことについて興味を持っています。人生においては、様々なものや出来事に、オープンに接することが大事だと思いますね」と言葉を重ねた。
数々の教則本の執筆を手掛けるなど、優れた教育者としても知られる。今の若い奏者に求めることとは?
「いつも自分の音楽的なアイディアを具現化するような演奏を心掛けて下さい! アイディアさえあれば、モチベーションを高く保ち、活力に満ちながら楽しくフルートを吹くことができるはずです」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年2月号より)
CD『リサイタル 〜ライヴ・イン・コンサート 2018〜』
マイスター・ミュージック
MM-4049
¥3000+税
2019.1/25(金)発売