バリバリの現代音楽からパスティーシュ、おしゃれなCM音楽までジャンルでくくれず、かといって通り過ぎるにはなんとも気になる中川俊郎は、筆者には困った作曲家だったが、この表面的には人を食った自称“ヒーリングCD”に強い歴史意識が通底しているのをみて、謎が少し晴れた。膨大な量の、過去の音楽遺産の断片―それは旋律の直接の引用だったり、スタイルの模倣だったりする―が降ってくる。しかし単なるデータベースのサーフィンではない。自らトリックスターと化すことで、情報の等価空間にさざ波を立てる危険でまじめな遊びなのだ。佐藤祐介のピアノもその遊戯の意義を汲んでいる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年11月号より)
【information】
CD『メッセージ/佐藤祐介&中川俊郎』
中川俊郎:断編残簡(17の小品)、ピアノのための19の展開、ソナチネ第1番〜こどものためのピアノ曲集「聞こえなくなった汽笛」より、ソナチネ第2番〜こどものためのピアノ曲集「どこでも大発見」より、ソナチネの遺跡(石)
佐藤祐介(ピアノ、語り)
中川俊郎(ピアノ)
録音研究室(レック・ラボ)
NIKU-9018 ¥2800+税