人物の喜怒哀楽を真実の感情として表現したいと思います
童話『シンデレラ』のオペラといえば真っ先に思い浮かぶのが、ロッシーニの《ラ・チェネレントラ》(1817)。継父と2人の義姉にこき使われるアンジェリーナが、王子ラミーロと結ばれるまでをしっとりと描いた傑作である。今回は藤原歌劇団が久々に上演。指揮を務める“若き巨匠”園田隆一郎に、この名作オペラについてたっぷり語ってもらう。
「まずはマエストロ・ゼッダの言葉『喜劇ほどシリアスに、悲劇ほど軽やかに演奏されなければならない』が思い出されます。喜劇では決してドタバタに陥らず端正に、時計のような正確さを持って。人物の愛情や怒りは真実の感情として表現し、ことさらに滑稽にしない。一方、悲劇では、どんなに劇的で激しい場面でもぶつけるような乱暴な音は出さず、常に軽やかで柔らかい音で。悲しい場面でもどこか微笑みを湛えるような穏やかさで表現したいのです。《ラ・チェネレントラ》は、コメディに悲劇性が混じるオペラ・セミセリアですが、当時のロッシーニも観客も、古典的で型通りの喜劇の形式に満足できなくなり、より深い真実の感情を爽やかなコメディの中で表現したいと思ったんでしょうね」
確かに、出会いの二重唱など、若者たちの心の震えが鮮明に伝わるような、滋味深い名曲である。
「アンジェリーナの役は、女声の最も低い声であるコントラルトのために書かれています。あくまで個人的な見解ですが、自らの人間的な魅力で“昇りつめていく”チェネレントラには深くて柔らかいコントラルトの声がぴったりですね。理知的であると同時に情熱的なヒロイン像を、この低い声で表現しようとしたロッシーニの感性が私は好きです。歌の表現では、ヒロインと王子と哲学者アリドーロの3人が、シリアスな場とコミカルな早口言葉とを上手く切り替えて演じ分ける点も面白いですよ。第2幕のR音を強調する六重唱ももちろんですが、第1幕のフィナーレで『まるで庭や森の中で夢を見ているようだ…』と、ソリストの7人全員がアカペラで歌う箇所も、美しく夢見るようなハーモニーと喜劇的な早口が共存しています」
今回は、若手中心のキャスティングも注目の的。
「1日目主演の向野由美子さんは素晴らしい美声の持ち主。歌手として信頼しています。2日目組の但馬由香さんとは初共演なので楽しみです。王子役のテノールの小堀勇介さんと山本康寛さんは2年前にペーザロのロッシーニ音楽祭《ランスへの旅》でしのぎを削った2人ですね。万全の布陣でしょう。なお、今回は通常カットされる難曲、義姉クロリンダのアリアも演奏します。ベルカントの女王、光岡暁恵さん、イタリアで活躍中の若手、横前奈緒さんの参加で物語がより立体的になると思います。フランチェスコ・ベッロットさんの演出も美しいものです。本番をお楽しみに!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年4月号より)
藤原歌劇団公演 川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカしんゆり)2018
ロッシーニ《ラ・チェネレントラ》
2018.4/28(土)、4/29(日・祝)各日14:00 テアトロ・ジーリオ・ショウワ
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
http://www.jof.or.jp/