鬼才が年明けに放つ興味津々の3プログラム
11月の読響公演でメシアンの大作オペラ《アッシジの聖フランチェスコ》を指揮し、歴史的な名演を残したカンブルラン。「素晴らしいコンサートでしたが、私は常に先のことを考えています」と語る彼は、その余韻も冷めやらぬ1月、常任指揮者を務める同楽団に再び登場し、興味津々のプログラムを3つ披露する。
その中で「私自信も興味深い」と話すのが、ブリテンの歌劇《ピーター・グライムズ》から「4つの海の間奏曲」、イェルク・ヴィトマンのクラリネット協奏曲「エコー=フラグメンテ」(日本初演)、ブルックナーの交響曲第6番を並べた定期演奏会(1/13)だ。
「ヴィトマン(今回ソロも務めるドイツの鬼才)の協奏曲は、委嘱段階から関わり、フライブルクやザルツブルクで演奏してきました。大きな特徴は、モダンとバロックの2種類のオーケストラが使われていること。異なるチューニングがなされた2つのオーケストラの間を、クラリネットがやはりチューニングを変えながら行き来します。技術的に難しい作品ですが、音楽自体は抒情的で詩的な要素が込められていますし、バンジョーやギターなども使われていますので、個性的なサウンドと共にモダンとバロックの同時体験を味わっていただけます。ブルックナーの6番は演奏機会の少ない曲ですが、私は録音も行い、サンフランシスコやシカゴでも演奏しています。わかりやすいメロディが沢山出てきますし、読響はブルックナーを頻繁に取り上げ、スクロヴァチェフスキさんとの演奏も重ねていますので、アプローチの違いを含めて、皆様に楽しんでいただけると確信しています。またブリテンの作品は、自然に対する彼の感受性が表れた音楽。オペラをたくさん振ってきた私としては、作品の魅力を伝えるのに効果的であり、ブルックナーと並べても互いを高め合うのではないかと考えています」
年明け最初を飾るのは「ニューイヤー・コンサート」(土曜マチネー1/6、日曜マチネー1/7)。《こうもり》序曲に始まり、「美しく青きドナウ」で終わるカンブルランとしては意外なプロだが、エキサイティングな名曲にもかかわらず生演奏が少ない歌劇《サムソンとデリラ》の「バッカナーレ」など、自国のフランスものも加えられ、大人気の俊英ヴァイオリニスト、三浦文彰も出演する。
「ニューイヤーには欠かせないJ.シュトラウスの作品に、以前聴いて共演したいと願っていた三浦さんが弾く『カルメン幻想曲』やフランスの名曲を、私が推して加えました。新年最初の公演ですから、小品一つひとつにエネルギーを込めて、音楽の楽しさと門出の喜びをお届けしたいと思っています。シュトラウスでは夢心地に浸れますし、『亡き王女のパヴァーヌ』のようにホッとする瞬間もありますので、ともかく“悲しみ以外”の音楽を聴いていただきたい。私もこうした形のコンサートを振るのは初めてですから、とても楽しみにしています」
ちなみにアンコールにはニューイヤー・コンサートで定番の「ラデツキー行進曲」を演奏するのか尋ねてみたところ、「それは当日のお楽しみ」とのこと。
最後は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲、バッハ(マーラー編)の「管弦楽組曲」から3曲、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の名曲プログラム(名曲シリーズ1/19、みなとみらい名曲ホリデーシリーズ1/21)。
「まずはイザベル・ファウストという素晴らしいヴァイオリニストの演奏、しかもブラームスの名作を聴ける、聴き逃せない機会です。ブラームスをあまり指揮しない私も、ヴァイオリン協奏曲は大好きな作品ですし、彼女のような偉大なアーティストと共演できるのを嬉しく思います。ベートーヴェンの5番は、就任1年目に読響で指揮した作品。それから7年を経て、私たちの演奏はさらに自由で、自信に満ち溢れたものになるでしょう。また私はベートーヴェンの作品を振るとき、モダン性を常に意識していますので、それを感じてほしい。バッハの管弦楽組曲は、どうしても入れたかった作品。これは20世紀初めにマーラーが、当時オーケストラで演奏されていなかったバッハの作品を皆に聞いてほしいとの思いから、基本的なオーケストレーションを変えずにコラージュしたものです。それが1世紀経った今、聴衆にいかなる反応をもたらすのか? も鑑みて、ご紹介したいと考えました」
どれも妙味十分のプログラム。新年が本当に楽しみだ。
取材・文:柴田克彦 撮影:寺司正彦
第203回土曜 マチネーシリーズ
2018.1/6(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第203回日曜 マチネーシリーズ
2018.1/7(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第574回定期演奏会
2018.1/13(土)18:00 サントリーホール
第608回名曲シリーズ
2018.1/19(金)19:00 サントリーホール
第100回みなとみらいホリデー名曲シリーズ
2018.1/21(日)14:00 横浜みなとみらいホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp/