飯守泰次郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

比肩する者なき王道を体感する

飯守泰次郎 C)金子 力
 「ため息をつくように始まり、熱狂と興奮のうちに幕を閉じる午後のひととき」のコピーがいい。本公演を端的に表してもいる。飯守泰次郎が東京シティ・フィルの定期演奏会で「ブラームス交響曲全曲シリーズ」を始める。冒頭の言は、第4番と第2番が披露される第1回公演のチラシの一文だ。
 飯守マエストロは、バイタリティを保ちながらますます円熟を深めている。2014年からオペラ部門の芸術監督を務める新国立劇場の《ニーベルングの指環》などその好例。特に17年10月の《神々の黄昏》は、壮大かつエネルギッシュに音楽を鳴らし切る快演だった。そんな飯守が、以前常任指揮者を務め、現在桂冠名誉指揮者の任にある最も意思疎通を図れる楽団、東京シティ・フィルとブラームスの交響曲シリーズを行うとなれば、耳目を惹かれるのも当然だろう。同楽団とは、ワーグナーのオペラや、ベートーヴェン(ベーレンライターとマルケヴィチ版)、チャイコフスキー、ブルックナーの各交響曲シリーズを共に行っているので、ブラームスに至るのは自然の流れ。重厚にして滔々と運ばれながら各フレーズが息づいた、他の追随を許さないドイツ・ロマン派音楽を聴かせてくれるに違いない。
 今回興味深いのは、最後に到達した第4番で始まる点。しかも後半は前向きな第2番だ。古典への回帰と未来への示唆を併せ持つ第4番は、まさに「ため息をつくように」始まり、明朗で牧歌的な第2番は「熱狂と興奮のうちに」幕を閉じる。この“憂愁から歓喜へ”の推移も相まって、唯一無二のブラームス体験が得られることへの期待に胸が踊る。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年1月号より)

第312回 定期演奏会 ブラームス交響曲全曲演奏シリーズⅠ
2018.1/20(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
http://www.cityphil.jp/