ビゼーのエキゾチックな傑作オペラにチャレンジ!
《カルメン》で名高いビゼーは、異国情緒の表現も得意な天才作曲家。パリで初めて上演した《真珠とり》も、インド洋の大自然と男の篤い友情を描いた名作オペラであり、近年ではテノールのアリア〈耳に残るは君の歌声〉が映画で使われ話題を呼んだ。
今回は来年2月に東京芸術劇場のコンサートオペラシリーズで、演奏会形式により上演される。昨年の《サムソンとデリラ》と同じく、フランス・オペラの名手の呼び声高い佐藤正浩が指揮を務め(管弦楽:ザ・オペラ・バンド)、美声と華やかさを併せ持つソプラノ鷲尾麻衣が巫女レイラを演じる。
「《真珠とり》は、当時では異例なほど合唱の出番が多いオペラですね。ビゼーも《カルメン》で言葉を伝える技を完璧に仕上げたけれど、ここでは音楽をシンフォニックに響かせて、ドラマ全体を音の映像として表したかったのかな。第1幕を締め括るレイラのアリアも、男声合唱を舞台袖から響かせつつ、青年ナディールが舞台の少し後ろで歌に反応するという構図をとっています。今回は演奏会形式でオーケストラも舞台に乗りますから、こういう場面では響きが混然一体となり、音像として浮かび上がることでしょう」(佐藤)
「私はもともとコロラトゥーラなので、レイラの役は声質の面での新たな挑戦であり、ヒロインにも初挑戦という二重のチャレンジとなります。年齢と共に声が抒情的な響きに変わってきて、お腹から声が出る感覚も自然と身についてきましたが、そういう時期に、第1幕でコロラトゥーラ、第2幕はリリコ、第3幕では人々の長ズルガとの二重唱で《カルメン》を髣髴とさせる、多彩なこの役が歌えて嬉しいです。相手を地声で罵倒するような場面も、初めてなので楽しみです!(笑)」(鷲尾)
「鷲尾さんの声はピュアで自在さもあります。お習字で筆に墨を含んで半紙に下ろすように『自然な、すっとした入り方』を感じますので、今回もその自然体の歌声を聴かせてくれればと」(佐藤)
「有難うございます。ビゼーの旋律美の上で力がすっと抜けていく歌を目指して頑張ります。ところで、私は歌手として心身ともに健康でありたいので、日常では食生活を最も重視します。佐藤さんはいかがですか?」(鷲尾)
「僕は運動です。駆け出しのころ一曲振るとハーハー言って(笑)、楽団員に笑われないようジムで走り始めて…。駆け出しと言えば、サンフランシスコでコレペティトゥールになって3日目で、大歌手のギネス・ジョーンズとの練習があり、込み入った半音階で一音弾き間違えた途端、彼女にスパッと指摘されて真っ青になりました。あれがプロとしての洗礼かな…。《真珠とり》では国立音大の学生諸君が合唱で参加します。客席の皆様の前で、この舞台が、彼らにとっても新しいスタートになれば幸いです」(佐藤)
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2017年12月号から)
東京芸術劇場コンサートオペラvol.5
ビゼー:歌劇《真珠とり》(演奏会形式)
2018.2/24(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
http://www.geigeki.jp/