萩原麻未(ピアノ)

いっそう成熟したピアニズムを堪能

C)Akira Muto

 待ちに待ったファンも多いだろう。萩原麻未が3年ぶりに本格的なソロ・リサイタルを行う。故郷の広島を皮切りに全国7ヵ所を巡り、東京の浜離宮朝日ホールが最終公演となる。この3年、なぜリサイタルを行わなかったのか。直球の質問をぶつけてみた。
「室内楽作品への関心が高まり、舞台上で自分以外のだれかと音楽を演奏する楽しさに引き寄せられて、気付いたら3年が経っていました。自分だけの考えにとらわれずに音楽作りができ、とても刺激的でした」
 堤剛や成田達輝といった魅力的な奏者との室内楽にのめり込み、オーケストラとの協奏曲にも積極的に取り組んだ。
「正直なところ、舞台上で一人というのが寂しいな、と感じていたのもあります。でも先日、久しぶりに軽井沢でソロ・リサイタルを行った時に『演奏する私自身もお客様と一緒に音楽を聴き、共有する一人なのだ』と思いました。そんな自分の変化を感じながら今回のツアーに臨みます」
 萩原が14歳で初リサイタルを行なったときに弾いたショパン(リスト編)の「6つのポーランドの歌」で幕を開ける。
「どこか懐かしさを感じさせる可愛らしい小品集です。楽譜には14歳当時の書き込みがあって、懐かしい気持ちでいっぱいです」
 「ラ・カンパネラ」など抜粋で取り上げるリストの「パガニーニによる大練習曲」は、原曲であるパガニーニのヴァイオリン作品に強く惹かれたという。
「原曲の『24のカプリース』は小品の集まりで、いろんな登場人物が出てくるオペラのようだと感じました。リストの編曲は非常に効果的で、ピアノ作品としての巧みな響きを提示したいですね」
 パリ音楽院時代の友人である台信遼(だいのぶ・りょう)の「秋霖抄」(しゅうりんしょう)に続き、後半はシューマンの小品集「謝肉祭」だ。
「嘘をついたり取り繕ったりできない人間的なシューマン。演奏したい彼の作品がたくさんあり最後まで迷いましたが、プログラムの前半に登場するショパンやパガニーニも顔を覗かせるこの曲集に決めました。初めて聴いたときからとても惹かれていた台信さんの『秋霖抄』は、精密な響きが本当に美しい作品です」
 3年ぶりにたっぷりと聴ける萩原の世界。彼女の演奏には冴えわたる直感力と、それを具現化させる無限の表現力とが満ちている。
「例えばパン職人の方は、緻密な計算と長年の経験値を掛け合わせ、最後はその日の天候や様々な条件からおいしいパンを作られているんじゃないかと思うんです。そうしたバランスを私も大事にしていきたいと思っています」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2017年11月号から)

浜離宮ピアノ・セレクション 萩原麻未 ピアノ・リサイタル
2017.11/29(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
※全国公演の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。 
http://mami-hagiwara.net/