巨匠が愛したピアノたち 江口 玲&阪田知樹デュオ

名器と名手が生み出すピアノ音楽の究極の美

 時代物の優れたピアノによるコンサートは、昨今では珍しいものではなくなりつつあるが、コンディション抜群の2台が揃い、名手によるデュオで奏される機会ともなればやはり格別だ。紀尾井ホールに2台のニューヨーク・スタインウェイが並ぶ。1台は1887年製の「ローズウッド」。19世紀のピアノ文化を今に伝え、カーネギーホールの舞台でも活躍した楽器だ。もう一台は1912年製の「CD75」。ホロヴィッツが愛奏したピアノとして知られ、繊細さとパワフルさを備えた名器である。
 優れた楽器ほど、奏者のどんな繊細なコントロールにも応えることができる。逆を言えばピアニストの側にも力量がなければ、楽器の魅力を十分に引き出すことはできない。今回の弾き手に不足はない。江口玲と阪田知樹だ。江口はこの2台でベートーヴェンの三大ソナタを録音し、コンサートでも弾き込んできた。パデレフスキの小品とリストのハンガリー狂詩曲第2番の対照的な2曲で、楽器固有の「声」を届けてくれるだろう。阪田知樹は昨年のリスト国際コンクールの覇者。熱意と創造性に富む彼の姿勢は、無限の伸びしろを感じさせる。今回は自身による編曲版でラフマニノフのチェロ・ソナタの第3楽章と、リストの「マゼッパ」を披露する。聴き逃せないのは、二人が2台ピアノで披露するブラームスだ。「ハイドンの主題による変奏曲」や「2台ピアノのためのソナタ」はいったいどんな奥行きを感じさせてくれるのだろうか。ピアノ音楽の究極の美に触れることになりそうだ。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ 2017年5月号から)

6/19(月)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp/