深い経験と見識を映した必聴のブル8
“児玉宏のブルックナー”が、再び関東で実現する。5月の神奈川フィル定期の第8番。しかも通常とは異なる1887年第1稿ノヴァーク版だ。児玉といえば、ドイツの歌劇場で下積みから叩き上げ、バイエルン州立コーブルク歌劇場の音楽総監督を務めるなど、本場の音楽語法を知悉した名匠。日本では、2008〜16年に音楽監督&首席指揮者を務めた大阪交響楽団(旧・大阪シンフォニカー響)とのコンビで名を馳せた。そして同楽団での最大の業績がブルックナーの交響曲全曲演奏。この「児玉宏のブルックナー」は、09年に文化庁芸術祭大賞を受賞するなど、絶賛を博した。
神奈川フィルとは15年9月定期で初めて共演し、ブルックナーの交響曲第4番等を披露。楽団の能力を最大限に引き出した圧倒的名演と賞賛され、同作曲家を象徴する名作=第8番で、待望の再登場と相なった。今回演奏される第1稿は、インバルなど一部の指揮者でしか耳にできない稀少な版。一般的な第2稿とは、第1楽章後半をはじめ随所に違いがあるので、曲を知る者にも新鮮だ。児玉は大阪響でも同版で演奏しており、その際に楽団のウェブサイトで、「音符が書き下されるのと同時にブルックナーの内面で起こる“音楽的発展の軌跡”を、より明確に聴き取れるのは、第1稿ではないか」との考えを述べている。それゆえ今回も“内面の動き”を重視した、濃密な名演が期待される。加えて神奈川フィルが同曲に取り組むのは、意外にも初めてとの由。あらゆる意味で歴史的な本公演に、ブルックナー&オーケストラ・ファンは、こぞって足を運びたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年4月号から)
第329回 定期演奏会 みなとみらいシリーズ
5/13(土)14:00 横浜みなとみらいホール
問:神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107
http://www.kanaphil.or.jp/