武満サウンドのエッセンスをじっくりと味わう
2016年は武満徹没後20周年にあたり、さまざまな追悼コンサートが行われたが、我らがトリックスター、井上道義が新日本フィル2016/17シーズンに贈るコンサートはひねりを効かせ、シリアスな音楽だけでなくその創作の多彩な源を探る。
武満は青年期にラジオから聞こえてくるシャンソンに胸を躍らせ、占領軍相手にアルバイトをしながら創作活動に入った。コンサートはまずシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」を蓄音機で再生して始まる。続いて大竹しのぶが反戦ソング「死んだ男の残したものは」を歌い、その出発点や戦争に対する思いを浮かび上がらせる。さらに親交の深かった木村かをりがデビュー作「2つのレント」(抜粋)、そして後年それを基に作られた「リタニ」のピアノ独奏曲2曲を演奏。
ここから管弦楽へバトンタッチ。ストラヴィンスキーに絶賛された弦楽器による哀哭の歌、「弦楽のためのレクイエム」は出世作だ。そこから巨大な編成の曲へと移り、鮮やかなオーケストレーションを堪能する。「グリーン」は、かの「ノヴェンバー・ステップス」と同時期に書かれた爽やかな曲。「カトレーン」では四人の奏者が織りなすアンサンブルがオケと対峙する。そしてシュールレアリスティックなアイディアに基づいた「鳥は星形の庭に降りる」。
映画は武満が愛してやまなかったメディアだった。その中から、ボクサーのクールな音楽(『ホゼー・トレス』より)、そして『他人の顔』のどこかシニカルなワルツで締めくくる。トークではミッキー節炸裂も大いに楽しみだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年1月号から)
第568回 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉
2017.1/26(木)19:00 サントリーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
http://www.njp.or.jp/