振付にも注目! SF映画の金字塔を舞台化
「原点にして頂点」と言われ、制作から90年を経た今もなお新鮮に語り続けられるSF映画の金字塔、それがフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』である。勝手に切られて散逸状態のフィルムの完全版を復元しようと、今も世界中の映画ファンが執念で収集している。それくらい人を魅了する作品が舞台化される。
描かれるのはディストピア。夢と希望ではなく暗黒面に満ちた未来都市である。演出は、行き詰まった世界における人間模様を数多く描いてきた串田和美。出演も、舞台で抜群の演技力を発揮する松たか子に、演技はもちろん世界一流の振付家とのダンスの協働も多い森山未來、またジャンル横断の存在感あふれる飴屋法水と多彩な顔ぶれだ。
特に振付は、いま最も注目されている山田うんである。原作となる映画でダンスは重要な位置を占める。クライマックスでアンドロイドのマリア(人間の女性の姿でだが)が当時盛り上がっていたドイツ表現主義のダンスを踊るのである。他にも大勢の労働者が、ベルトコンベアで運ばれる工場製品のように集団で進んでいく有名なシーンなどは群舞のようだ。これらのシーンが舞台でどうなるかはともかく、『春の祭典』など群舞とソロの両面で評価が高い山田の力量が十分に発揮されるだろう。
ラングの作品は、第一次大戦敗戦後、ナチスが急速に勢力を拡大していたドイツで作られた映画だ。ユダヤ人であるラングはいち早く訪れる世界を予見していたのかもしれない。世界がキナ臭くなり、ナショナリズムを利用して力強く未来を語る指導者の熱が徐々に浸透している現代の我々にとって、この舞台は人間の本当の尊厳は何かを問い直すものとなるだろう。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ 2016年9月号から)
11/7(月)〜11/30(水) Bunkamura シアターコクーン
9/3(土)発売
問:Bunkamura 03-3477-3244
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_metropolis