指揮とチェロで古典派の傑作に深く迫る
日本古楽界の中心的存在の一人である鈴木秀美。チェロ奏者としてはもちろん、近年は指揮者としての活動も活発だ。6月には、2013年から首席客演指揮者を務める山形交響楽団を振る。
「意識としてはチェロと指揮は半々。どちらに重きを置いているというわけでもありません。指揮には子供の頃から興味があって、桐朋時代は尾高忠明先生や秋山和慶先生に教えていただきました」
メンデルスゾーン12歳の時の弦楽シンフォニア第3番をオーケストラの中で、ハイドンのチェロ協奏曲第2番を独奏で弾き振り、そして山形交響楽団が今シーズンのテーマにしているベートーヴェン交響曲全曲演奏の一環となる第7番で指揮台に立つという“三変化”だ。
「簡単ではありません。でも最初に手を振り回してしまうと次に協奏曲を弾けませんから。それにメンデルゾーンは弦楽オーケストラなので、弦楽器奏者としてのコミュニケーションができるのもいいですね」
山形交響楽団は2004年から常任指揮者を務める飯森範親の提唱で、古典派の作品を演奏する時にはナチュラル・ホルンやナチュラル・トランペット、木製フルートを用いている。
「大英断だったと思います。オーケストラ全体に与える影響は非常に大きいです。音色がずいぶん違いますし、弦もそれを聴き分けて合わせるので、耳のパレットが増えて柔軟になる。それを重ねるうちに、ヴィブラートをどうするかといったことも、いちいち言わなくても揃ってくると思うんですね。そもそもヴィブラートの有無をことさらに問題にするのは本質的ではないこと。それよりもオーケストラで古典派の音楽を演奏する時は、音をどういうシェイプで減衰させるか、それを揃えることが重要なのです」
弦楽パートの規模も、原則的に最大で8型(第1ヴァイオリンが8人)の編成だ。
「僕にとって8型は十分に大きな編成。とはいえ、弦の編成がこれ以上に大きいと管楽器はすごく大きく吹かないとバランスが取れないのですが、8型ならそういう問題が解消されます。ベートーヴェンの音楽の偉大で堅固な印象というのは音量や人数によるものではなく、それ以外のところにたくさんの魅力があるのです。僕はベートーヴェンは大好きですから楽しみですね」
今回のコンサートでは山形名産さくらんぼのプレゼントや恒例のロビーでの物産展も。音楽的にも、山形での2回の定期を経て乗り込む大阪では、さらに完成度の高い演奏が期待されるはず。プレ・トークには山響音楽監督の飯森範親もかけつける。幾重にも、まさに“垂涎”のコンサートだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)
山形交響楽団特別演奏会 さくらんぼコンサート 2016 大阪公演
6/22(水)19:00 いずみホール
問:KCMチケットサービス0570-00-8255
http://www.kojimacm.com