人生と音楽の交差を見つめるドキュメント〜映画『ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る』
世界のトップ・オーケストラの一つ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)は、創立125周年記念のワールドツアーを2013〜14年にかけて行った。1年で50公演を行うツアーは、初訪問となる南アフリカや、39年ぶりとなるロシア公演など、RCOにとっても歴史的な一大イベントになった。そのツアーを記録したドキュメンタリー映画『ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る』がこの1月に公開される。監督は『アンダーグラウンド・オーケストラ』などで知られる社会派、エディ・ホニグマン。
2015年11月にRCOがツアーで日本を訪れた際、ともに重要な“役”で映画に出演している、打楽器奏者のヘルマン・リーケンと首席コントラバス奏者のドミニク・セルディスに話をきいた。
(リーケン 以下:R)「長大なツアーだったので、いくつかのセクションに分けて実施しました。最後のセクションは1ヵ月かけてロシア・中国・日本・オーストラリアを連続して訪れましたが、僕らのコンディションはいつも良かったですし、いい演奏ができたと思います」
(セルディス 以下:S)「ツアー終了後の達成感が凄かった。120人の大所帯が世界中を移動するには、想像を絶する労力が必要です。僕の大きな楽器が必要な時にその場所にちゃんとある、ということ自体凄いことなのです。ツアー・スタッフの働きには本当に頭が下がります」
映画はアルゼンチンのブエノスアイレス、南アフリカのソウェト、ロシアのサンクトペテルブルクなどでの公演の様子に、本拠地アムステルダムの模様が挿入される。もちろん、首席指揮者のマリス・ヤンソンスや、ヴァイオリニストのジャニーヌ・ヤンセンらが登場するリハーサルや本番の映像もふんだんに使われている。
R「映画を最初に観た時は、本当にびっくりしました。なぜなら、誰もいないコンセルトヘボウのステージだ、と思ったら、僕だけが映っている。そして、何か長いことしゃべっていて…。恥ずかしくて仕方がなかったです。でもそのシーンが終われば、あとは楽しむことができました。“単なるオーケストラのツアー映画”ではないか、という不安は吹っ飛びました」
S「そう、様々なオーケストラのドキュメンタリーを観ましたが、これは最高傑作の一つだと思います。音楽が軸になってはいますが、音楽が人々にどのような影響を与えているのか、その要素をうまくまとめています。そして映像もとても美しい」
ブエノスアイレスではタクシーの運転手、ソウェトではRCOの教育プロジェクトに参加した少女、サンクトペテルブルクでは、スターリンとヒトラーによって人生を翻弄された老人…。ブルックナー「交響曲第7番」、チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」、ヴェルディ「レクイエム」、マーラー「交響曲第2番『復活』」といった名曲が彼らの人生と交差する。
セルディスは映画の中で流れるショスタコーヴィチ「交響曲第10番」について独自の解釈を説明しながら音楽の“強さ”を訴えている。
S「政治家は、音楽が特に人々の感情に訴えかける芸術であることをいいことに、音楽を利用したり抑制したりしてきました。しかし、今でも250年以上前のバッハの音楽が演奏されているように、音楽はいつも政治に“勝利”しています。音楽は我々が想像できないほど、大きなものなのです」
この映画を観た後には、人生と音楽について様々な想いが巡ってくるに違いない。
取材・文・写真:大塚正昭 協力:KAJIMOTO
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)
『ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る』
監督:エディ・ホニグマン
出演:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
2016年全国順次公開
東京:渋谷・ユーロスペース 1/30(土)より
大阪:シネ・リーブル梅田 2月
愛知:名古屋シネマテーク 2月下旬 他
詳細は右記の映画公式サイトでご確認ください。
http://rco-movie.com