マーラー、ブルックナー、シュトラウス ―― 佐渡裕が新日本フィルとともに追い求める “ウィーン・ライン” 4年目の深化

Yutaka Sado
新日本フィルハーモニー交響楽団 音楽監督

 新日本フィルハーモニー交響楽団(NJP)の音楽監督として聴衆からも楽員からも篤い支持を集める佐渡裕に、4月からの2026/27シーズンの聴きどころを語ってもらった。

 「新日本フィルはとても機能的なオーケストラですが、僕が指揮する定期公演では、ウィーンで活躍した作曲家を中心に、けっして器用さを追求するのではなく、正面から深く深く掘り下げていくシーズンにしたいと思います」

 佐渡のレパートリーの柱となる「ウィーン・ライン」に、今年は重量級の曲目がそろう。6月のマーラーの交響曲第3番は、30年以上前に新人としてNJPに客演したときに取りあげた曲だ。

 「ですから特別な思い入れもあり、とても気に入っているシンフォニーです。自然の持つ偉大さを描いて、マーラー特有の世界が最もはっきりと表されている曲です。オーケストラの面白さがギュッと詰まっていて、メゾソプラノの藤村実穂子さんとの共演も楽しみです」

 9月には、ブルックナーの交響曲第5番を演奏する。2024年に演奏した第7番には佐渡自身もとても満足し、楽員との信頼関係がいっそう深まっただけに、今回も期待が大きい。

 「ブルックナーの交響曲のなかでも第5番はコラール主題が用いられていますが、宗教的というよりも、構築力をもったすごく大きな作品だと捉えています。弦楽器を土台として、全体のハーモニーで音楽が進行する。マーラーとはオーケストラの役割がずいぶん違います」

 2027年1月には、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番とリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。

 「非常に華やかなプログラムです。色彩感豊かなリヒャルト・シュトラウスもまた、僕らが目指すウィーン・ラインの一つの頂点です。サン=サーンスでヴァイオリン独奏を弾くアレクサンドラ・コヌノヴァは、強い音と伸びやかな音楽性、さらに正確性といろいろなものを兼ね備えた素晴らしいヴァイオリニストなので、ぜひNJPに連れてきたいと思っていました。今回は定期公演と『すみだクラシックへの扉』にも来てくれます」

 客演指揮者たちの顔ぶれも華やかだ。

 「ゲストの指揮者の方たちには、オーケストラの機能性を生かして、僕が持っていないような部分も含めて、広範囲な魅力を感じていただければと考えています」

 近年活躍が目立つ女性指揮者は2人、俊英カレン・ニーブリン(4月)と、リコーダー奏者としてバロック音楽で大きな実績を残してきたドロテー・オーバーリンガー(27年2月)が登場する。さらにベテランのミシェル・タバシュニク(26年5月)とオリ・ムストネン(10月)の2人は作曲家としても活躍しているだけに、NJPからさらなる多様性を引き出してくれるだろう。ピアノの小林愛実(4月)、チェロのアンドレイ・イオニーツァ(5月)という2人のソリストの登場も楽しみだ。

 さらにNJPには「すみだクラシックへの扉」というシリーズもある。

 「初めてオーケストラを聴く、初めてすみだトリフォニーを訪れるという方に、オーケストラのために作られたこのホールで、オーケストラの面白さを体感していただけるものです。墨田区在住の方やお勤めの方はチケットが割安になる特典もありまして、ありがたいことに完売の状態が続いています」

 新シーズンも「音楽で世界の旅へ」をテーマに、日本を含めた各国の音楽を、佐渡も含めた日本のベテランたち、海外の俊英たちが指揮者として紹介していく。

 「オーケストラのメンバーも世代交代して、特に管楽器にはすばらしいプレイヤーが入ってくれて、これからもさらに変化していく、面白い時期にあると思います。そして何より大切な目標は、墨田の街から愛されるオーケストラであることです。音楽を通して、心を豊かにしてもらえる場を作っていきますので、ぜひたくさんの方に来ていただければと思います」

取材・文:山崎浩太郎 写真:布川航太
取材協力:すみだトリフォニーホール
(ぶらあぼ2026年1月号より)

新日本フィルハーモニー交響楽団 2026-2027シーズン
佐渡裕出演 定期演奏会


第671回】2026.6/12(金)19:00 サントリーホール
      6/13(土)14:00 すみだトリフォニーホール
【第672回】2026.9/25(金)19:00 サントリーホール

      9/26(土)14:00 すみだトリフォニーホール
【第674回】2027.1/23(土)14:00 サントリーホール

      1/24(日)14:00 すみだトリフォニーホール
(開演10分前より佐渡裕によるプレトークあり)

問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp

※シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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