東京・春・音楽祭2026 ラインナップ――超大作「グレの歌」、巨匠の弾き振り……来春も大輪の花々が咲き誇る!

 春の上野の風物詩といえば「東京・春・音楽祭」。2026年の開催期間は3月13日から4月19日まで。東京文化会館をはじめ、上野の各美術館や博物館等を舞台に、オペラから室内楽、リサイタルまで、バラエティに富んだ公演が開催される。

 まず、目玉公演となるのは、マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団によるシェーンベルクの「グレの歌」。これまでヤノフスキとN響のコンビは同音楽祭の「ワーグナー・シリーズ」で数々の名演をくりひろげてきたが、今回はシェーンベルクの記念碑的大作に世界の第一線で活躍する歌手陣とともに挑む。合唱は東京オペラシンガーズ。N響創立100年のアニバーサリー・イヤーにふさわしい重量級のプログラムだ。特大編成を要する後期ロマン派のスタイルで書かれた大作だが、ヤノフスキが描く「グレの歌」はいかに。
 音楽祭の柱となる「ワーグナー・シリーズ」では、アレクサンダー・ソディ指揮N響により《さまよえるオランダ人》がとりあげられる。欧米の主要歌劇場から引く手あまたの俊英が、N響からどんなサウンドを引き出すのか、期待が高まる。

左:マレク・ヤノフスキ ©Felix Broede 右:アレクサンダー・ソディ ©Miina Jung

 演奏会形式のオペラはもうひとつ。恒例の「プッチーニ・シリーズ」では2024年に続いてピエール・ジョルジョ・モランディが登場。読売日本交響楽団、新国立劇場合唱団とともに《マノン・レスコー》でプッチーニの甘美な音楽世界に誘う。
 今回はさらにハイドンのオラトリオ「四季」が、アイヴァー・ボルトン指揮東京都交響楽団と東京オペラシンガーズによって演奏される。ボルトンは古典派とバロックに定評のある名指揮者。「天地創造」と双璧をなすハイドンの傑作の真価を伝える。

左:ピエール・ジョルジョ・モランディ 右:アイヴァー・ボルトン ©Ben Wright

 2024年から3年連続の出演となる名ピアニスト、ルドルフ・ブッフビンダーは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を二夜にわたって演奏する。共演はこれまでリッカルド・ムーティの薫陶を受けてきた東京春祭オーケストラ。長年にわたり同曲を奏でてきたブッフビンダーならではの成熟したベートーヴェンを堪能できるだろう。弾き振りという点も興味を引く。
 パリの精鋭集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランも3年連続の出演を果たす。2026年に生誕100年を迎えるクルターグの作品をはじめ、ジョージ・ベンジャミンの最初のオペラ《小さな丘へ》(日本初演)など、2公演で同時代の音楽の魅力を伝える。

左:ルドルフ・ブッフビンダー ©Marco Borggreve 右:アンサンブル・アンテルコンタンポラン ©Quentin Chevrier

 実力者ぞろいの室内楽公演もこの音楽祭の大きな魅力だ。ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽では、コンサートマスターのクシシュトフ・ポロネク、首席チェロ奏者のオラフ・マニンガーらが出演。そのほか、意欲的な活動を展開するディオティマ弦楽四重奏団や、スペインの新星マリア・ドゥエニャスのヴァイオリン・リサイタル、トレヴァー・ピノックとエマニュエル・パユらによるバロック音楽集など、注目公演が目白押しとなっている。ピノックは首席指揮者を務める紀尾井ホール室内管弦楽団とも共演する。
 2日間にわたって開催される「オープニング・ガラ・コンサート 室内楽の夕べ」では、音楽祭ゆかりの名手たちが集う。郷古廉、周防亮介らによるメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲など、ガラの名にふさわしい豪華な公演だ。

左より:トレヴァー・ピノック ©Gerard Collett、マリア・ドゥエニャス ©Sonja Mueller、郷古廉 ©Hisao Suzuki、周防亮介 ©JUNiCHIRO MATSUO

 「歌曲シリーズ」ではソプラノのカミラ・ニールンド、バリトンのアドリアン・エレート、テノールのクリストフ・プレガルディエン、同じくテノールのデイヴィッド・バット・フィリップ、バリトンのアンドレ・シュエンがリサイタルを開く。エレートのクルト・ヴァイルや、フィリップのブリテンなど、多彩。
 ブリテンといえば、「カンティクル」全曲の演奏も注目に値する。テノールの望月哲也を中心に日本の名手たちが集う。

上段・左より:カミラ・ルーランド ©Shirley Suarez、アドリアン・エレート ©Nikolaus Karlinský
下段・左より:クリストフ・プレガルディエン、デイヴィッド・バット・フィリップ ©Andrew Staples、
アンドレ・シュエン ©Christian Leopold

 ここでしか聴けないユニークな企画も満載だ。リトアニアの作曲家にして画家のチュルリョーニスの名はご存じだろうか。「ディスカヴァリー・シリーズ」では、同時期に国立西洋美術館で開催される「チュルリョーニス展 内なる星図」に合わせて、リトアニア室内管弦楽団が来日して、この作曲家の作品を演奏する。名物企画「マラソン・コンサート」のテーマは「旅するモーツァルト、旅するウェーバー」。旅をテーマにふたりの作曲家に焦点が当てられる。東京藝術大学奏楽堂で行われる「ザ・ヴォーン・ウィリアムズ」は、加藤昌則の指揮とトーク、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏で。イギリス音楽を語るに欠かせない作曲家を特集する。

加藤昌則

 東京国立博物館、国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館を舞台としたミュージアム・コンサートもこの音楽祭の大きな楽しみだ。場の魅力に加え、奏者との距離が近く、コンサートホールとはまた違った感動がある。
 バイロイト音楽祭提携公演の子どものためのワーグナー《さまよえるオランダ人》、街中で開かれる無料のミニ・コンサート「桜の街の音楽会」も開催される。春の訪れが待ち遠しい。

文:飯尾洋一


東京・春・音楽祭2026【配信あり】
2026.3/13(金)〜4/19(日)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、東京国立博物館、国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館 他
問 東京・春・音楽祭サポートデスク050-3496-0202

https://www.tokyo-harusai.com
※プログラム、チケット発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


飯尾洋一 Yoichi Iio

音楽ジャーナリスト。著書に『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』新装版(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。音楽誌やプログラムノートに寄稿するほか、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザーなど、放送の分野でも活動する。ブログ発信中 http://www.classicajapan.com/wn/