
日本の音楽ファンにもおなじみとなった「フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン」が、今年も12月にやってくる。ウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーとその仲間たち7人が、音楽の楽しさを体現する、世界屈指のアンサンブルだ。
「フィルハーモニクス」の魅力は、硬派にクラシックを演奏しても世界トップクラスのメンバーたちが、ジャンルや時代や形式といったルールに縛られず、無条件の「楽しさ」を身体いっぱいで表現すること。どんなパフォーマンスも辞さないが、品格を失わないのも彼らならでは。解放感と安心感の両立した音楽の喜びが、会場中に広がるのである。
楽曲についても、多くは彼らのオリジナルまたは編曲作品。編曲も元の曲をベースにしながら、自由にアイディアが広がる秀逸なものばかりで、新鮮な体験になること間違いない。
そして、この12月9日は、初台の東京オペラシティ コンサートホールで、昼公演と夜公演の2本立て! しかもそれぞれ違うテーマが掲げられている。
約90分の昼公演のテーマは“DANCE”。ショパン、ラヴェルといったクラシックの編曲が柱となるが、欧州各地の民俗音楽の要素も自在に配するプログラム。思わず体が動いてしまうようなステージで、ダンサブルな時間を過ごせるはず。
夜公演は“LOVE”。これもプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」やヤナーチェク《利口な女狐の物語》といったクラシックから、映画『タイタニック』、さらには「トリスタンのタンゴ」といったニヤリとさせられるタイトルの曲まで多彩。多様な「愛」をテーマとする音楽の数々を、美しく、楽しく、ときに切なく、堪能させてくれる。
メンバーに触れておこう。ヴァイオリンはノア・ベンディックス=バルグリー。ベルリン・フィルの第1コンサートマスターという最高の名手にして、クレズマー音楽の演奏と継承をライフワークにする、頼もしいリーダー。もう一人のヴァイオリン、セバスチャン・ギュルトラーは、ウィーン・フォルクスオーパー響第1コンサートマスターを経て、フィルハーモニクスでは作編曲から歌や口笛まで(?!)、さまざまなパフォーマンスも担当するキーマンだ。
ヴィオラはウィーン・フィルのティロ・フェヒナー。日本では殊に著名な存在だが、ここでは彼だけ赤いスーツで、その着こなしも演奏も、スタイリッシュそのもの。端正な演奏姿も注目となろう。チェロのシュテファン・コンツは、元ウィーン・フィル、現ベルリン・フィルの達人で、作編曲も多数。なおフィルハーモニクスの大半の楽曲は、ギュルトラーかコンツの作曲または編曲で、両者の閃きも大きな特長となる。
コントラバスはウィーン・フィル首席奏者のエーデン・ラーツ。ウィーン音楽に東欧民俗音楽も知り尽くし、豊かな低音で支えつつ、ときに技巧も見せる。唯一の管楽器はクラリネットのダニエル・オッテンザマー。ウィーン・フィル首席奏者で、美音も超絶技巧もお手の物、フィルハーモニクスの精神的支柱ともなっている。そして、彼らの長い友人であり盤石の演奏で包みこむ、ウィーンのピアニスト、クリストフ・トラクスラー。
12月9日は初台が「フィルハーモニクス・デー」になる。“LIVE”でしか味わえない喜びを体験したい方は、ここに集うべし。年の瀬を笑顔で過ごせるはず。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年11月号より)
フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン 2025
2025.12/9(火)14:00 【昼公演 “DANCE”】、 19:00【夜公演 “LOVE”】
東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。

