山田和樹&日本フィルが鮮烈に描く近代フランスの色彩

左より:山田和樹 ©Zuzanna Specjal/加耒 徹/熊木夕茉 ©GODA

 11月の日本フィル東京定期の指揮は山田和樹。モンテカルロ・フィルやバーミンガム市響のシェフとして実績を重ね、2026/27シーズンからベルリン・ドイツ響の首席指揮者兼芸術監督に就任し、25年6月のベルリン・フィルデビューでも賞賛を博した“世界のヤマカズ”は、かつて正指揮者を務めた日本フィルとの縁も深く、毎年客演を続けている。むろん最大の魅力は、聴く者を吸引する雄弁な音楽だが、通り一遍ではないプログラムや表現も見逃せない。そうした“素”のヤマカズの真価を身近に味わえるのが日本フィルとの共演のチャーム・ポイントであろう。

 今回のプログラムは、ベルリン・フィル客演時と同じく武満徹&フランスもの。最初のドビュッシー「遊戯」は、作曲者最後の管弦楽曲で、円熟の筆による色彩感が聴きものとなる。おつぎは武満の「マイ・ウェイ・オブ・ライフ」。田村隆一の英訳詩を用いたバリトン独唱(加耒徹の現役最強の歌唱も心強い)と合唱(東京音楽大学)付きの佳品で、後期作品ならではの柔和な響きが胸に染みる。それにこの曲は武満作品の中でもとりわけドビュッシーの影響を感じさせる音楽だ。後半は、各奏者の妙技が楽しみなラヴェルの「ボレロ」を経て、プーランクの「スターバト・マーテル」へ。後者は、シリアスかつ濃密な大作で、ソプラノ独唱(気鋭の熊木夕茉)と合唱を交えた妖しい美しさに魅せられる。

 これは、ドビュッシーから武満に至る20世紀フランス音楽の系譜を辿る内容であり、その変遷を体感しながら世界の頂点へ向かうマエストロの魅力を感知できる、極めて意義深い公演だ。

文:柴田克彦

(ぶらあぼ2025年11月号より)

山田和樹(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団 第776回 東京定期演奏会
2025.11/28(金)19:00、11/29(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp