
ヴァイオリンの印田千裕、チェロの印田陽介の姉弟が11月23日、「ラヴェル生誕150年に寄せて」の副題を添えたデュオリサイタルを東京・銀座の王子ホールで開く。2012年、陽介が留学から帰国した機会をとらえて「ヴァイオリンとチェロの響き」を企画して以来、今回が14回目の公演。一貫して他の楽器を交えず、2人だけで弾いてきた。
千裕「きょうだい仲は子どもの頃から良かったのですが、2人一緒に演奏する機会はあまりありませんでした。『1回くらい一緒にやろう』ということで始めましたが、レパートリーの開拓にやり甲斐を感じ、この編成でリサイタルを続けることにしました」
弦楽器どうしなのでアンサンブルはシンプルで合わせやすい半面、それぞれの音数は多く、技巧面の難易度は意外に高いらしい。
陽介「1回あたり5〜8曲を並べるので、今までに手がけた作品は100曲に迫ります。ラヴェルのソナタは今回が3度目です。毎回、邦人作曲家も1人は入れます。今回の橋本國彦『習作第1番』は日本で最初期の微分音作品。4〜5分の短い曲ながら、微分音を邦楽器の“揺らぎ”を表現するために使っている点がユニークです。他の楽曲もヴァイオリニストやチェリストが自身の技を聴かせたり、仲間と合わせたりするために書かれたものが多く、親しみやすいと思います」
「マリーコンツェルト」レーベルから12月1日発売、リサイタル会場での先行販売を予定しているセカンドアルバムのタイトル『プレゼント』も今回のリサイタルの1曲。「ちょっとロック、ジャズみたいなカッコ良さがあります」(陽介)。作曲者のオンジェイ・クーカルは1964年プラハ生まれ、現役のチェコ人ヴァイオリニストでもある。
千裕「最初のアルバムのタイトル『ウォーター・ドロップレッツ(水滴)』も収録曲の1つ、シベリウス最初の作品から採りました。他はハルヴォルセン編曲のヘンデルやグリエールなどこの2つの楽器のためのオリジナル作品の定番と、モンティ『チャルダッシュ』、エルガー『愛の挨拶』などの編曲ものでした。セカンドでは、リサイタルでも取り上げるダンクラの《セビリアの理髪師》による二重奏曲など、割と知られていないけれども、実は聴きやすくて良い作品を積極的に集めています」
2人とも、デュオリサイタルは「もう曲がない、と困るまで続ける」と声をそろえる。「そろそろ、同時代の作曲家への新作委嘱も考えたいですね」とも語るので、作品リストが枯渇する心配はなさそうだ。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2025年11月号より)
印田千裕 & 印田陽介 デュオリサイタル〜ヴァイオリンとチェロの響き Vol.14〜
11/23(日・祝)14:00 王子ホール
問:マリーコンツェルトmusic@malykoncert.com
https://chihiroinda.com
https://yohsukeinda.com

CD『Present ―知られざるデュオ名曲集―』
マリーコンツェルト
MLKT-26003
¥3300(税込)
2025.12/1(月)発売

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com

