第19回ショパンコンクール 優勝はエリック・ルー、第4位に桑原志織

 10月2日にワルシャワで開幕した第19回ショパン国際ピアノコンクール(審査員長:ギャリック・オールソン)は、現地時間18〜20日に行われた本選の審査が終了し、21日午前2時半(日本時間午前9時半)を過ぎた頃にようやく最終結果が発表された。優勝はアメリカのエリック・ルー、日本勢でファイナリストとなっていた桑原志織が第4位入賞を果たした。

第1位 Eric Lu ©Wojciech Grzedzinski/NIFC

◎第19回ショパン国際ピアノコンクール 最終結果 カッコ内は賞金
第1位 Eric Lu エリック・ルー(アメリカ)(60,000 €) 
第2位 Kevin Chen ケヴィン・チェン(カナダ)(40,000 €)
第3位 Zitong Wang ワン・ズートン(中国)(35,000 €)
第4位 Tianyao Lyu リュー・ティエンヤオ(中国)/ Shiori Kuwahara 桑原志織(日本)(30,000 €)
第5位 Piotr Alexewicz ピオトル・アレクセヴィチ(ポーランド)/ Vincent Ong ヴィンセント・オン(マレーシア)(25,000 €)
第6位 William Yang ウィリアム・ヤン(アメリカ)(20,000 €)

マズルカ最優秀演奏賞 Yehuda Prokopowicz イェフダ・プロコポヴィチ(ポーランド)(7,000 €)
コンチェルト最優秀演奏賞 Tianyao Lyu(中国)(7,000 €)
ソナタ最優秀演奏賞 Zitong Wang(中国)(7,000 €)
ポロネーズ最優秀演奏賞 Tianyou Li リ・ティエンヨウ(中国)(7,000 €)
バラード最優秀演奏賞 Adam Kałduński アダム・カウドゥンスキ(ポーランド)(7,000 €)

※カタカナ表記は編集部作成。それぞれの言語の標準的なルールに則っていますが、実際の発音は異なる場合があります。

 優勝したエリック・ルーは、1997年、マサチューセッツ州出身。カーティス音楽院修了。ロバート・マクドナルド、ジョナサン・ビス、ダン・タイ・ソンに師事。前々回の第17回ショパンコンクール(2015)で17歳の若さで第4位入賞して注目を集め、2018年にはリーズ国際ピアノコンクールで優勝。予備予選免除での出場だったが、ムーティ指揮シカゴ響、オルソップ指揮ロンドン響など主要オーケストラとの共演など、すでに世界的に活躍しているだけに、今回は本命視されていた。途中、3次予選では体調を崩して演奏順を遅らせるというハプニングもあり心配されたが、終始、ファツィオリのピアノで内省的な独特の世界観を聴かせ、見事栄冠を手にした。協奏曲第2番を弾いての優勝は、師匠ダン・タイ・ソン(1980年)以来のこととなる。

第4位 Shiori Kuwahara ©Wojciech Grzedzinski/NIFC

 第4位に入賞した桑原志織は、1995年生まれの30歳、東京都出身。東京藝術大学を卒業後、ベルリン芸術大学ではクラウス・ヘルヴィッヒのもと修士課程を修了。フェルッチョ・ブゾーニ国際ピアノコンクール(2019)、ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(2021)で第2位に入賞するなど、国際コンクールでの実績は十分。今年のエリザベート王妃国際コンクールでもファイナルに進出するなど活躍が続いている。今大会では、どのラウンドも安定感抜群で、ダイナミックで豊かな音色を響かせ、本選でも会場からひときわ大きな拍手が送られていた。

第2位 Kevin Chen ©Wojciech Grzedzinski/NIFC

 中国28名、日本13名をはじめ、例年以上にアジア勢の活躍が目立った今年の大会だったが、終わってみれば、エリック・ルー、ケヴィン・チェンと北米の中国系コンテスタントやワン・ズートン、リ・ティエンヨウの中国勢と、中国系コンテスタントが上位を占める結果に。全体として、テクニックと表現力を兼ね備えたピアニストが多く、層の厚さを感じさせた。ラウンドが進むごとに存在感を増し、第5位に入賞したマレーシアのヴィンセント・オン、惜しくも入賞はならなかったが、二度目の挑戦で本選出場をつかみ情感あふれる演奏で聴衆を惹きつけた進藤実優、常に洗練されたショパンを聴かせたピオトル・アレクセヴィチ(第5位)や、落ち着いた佇まいで独特の味わいをみせたジョージアのダヴィド・フリクリなど、それぞれ個性あふれる演奏が展開された。

第3位・ソナタ賞 Zitong Wang ©Krzysztof Szlezak/NIFC
Miyu Shindo ©Krzysztof Szlezak/NIFC

 3日間にわたった本選では、コンクール史上初めてソロが導入されるという課題曲の大きな変更があった。ソロでの「幻想ポロネーズ」に続いて、アンドレイ・ボレイコ指揮ワルシャワ・フィルとの共演での協奏曲を11名のファイナリストが演奏した。晩年の作品で趣の異なる「幻想ポロネーズ」を初期作品である2曲のピアノ協奏曲の前に置くことで、より幅広い表現力・総合力を求めるものであった。次回以降も、このやり方が踏襲されていくのだろうか。

第4位・コンチェルト賞 Tianyao Lyu ©Wojciech Grzedzinski/NIFC

 後日、各審査員の採点詳細が公表されてみないとわからないが、全ラウンドを通じて、僅差の闘いであったことが想像される。総合力が求められるという意味で、今回導入された採点方法の影響は大きかったと思われる。従来のYes/No方式に代わって、25点満点で点数をつけ、平均点を算出するが、ラウンドごとに点数算出のための配分が決まっており、加重累積で前のラウンドの点数が判定に影響してくる。最終結果の場合、1次予選10%・2次予選20%・3次予選35%・本選35%。極端な点数の補正も含め、非常に合理的にできているシステムだ。しかし、審査員自身にとっても、直近の印象と結果が一致しないケースが発生しやすいとも言える。すでに審査員の中からも異論が出ていると伝え聞くが、万人が納得できるルールというのは、なかなか難しいのかもしれない。

第5位 Piotr Alexewicz ©Krzysztof Szlezak/NIFC
第5位 Vincent Ong ©Wojciech Grzedzinski/NIFC

 このあと、現地時間21〜23日(日本時間22日〜24日)に入賞者披露演奏会が3回行われ、コンクールは幕を閉じる。次回開催は5年後の2030年だが、1927年に始まった同コンクールは2027年に創設100周年を迎える。アニバーサリーを記念するイベントも予定されているので、まずはそちらを楽しみに待ちたい。

第6位 William Yang ©Krzysztof Szlezak/NIFC

文:編集部

第19回ショパン国際ピアノコンクール
2025.10/2(木)〜10/23(木) 会場:ワルシャワ・フィルハーモニー

◎入賞者披露演奏会 10/21(火)〜10/23(木)各日19:00(日本時間翌日2:00)
https://chopincompetition.pl


【Information】
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025 優勝者リサイタル
2025.12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
2025.12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

第19回ショパン国際ピアノ・コンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/27(火)、1/28(水)18:00 東京芸術劇場 コンサートホール
2026.1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール

出演
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール入賞者(複数名)、アンドレイ・ボレイコ(指揮)、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

他公演
2026.1/22(木) 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)
2026.1/23(金) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
2026.1/24(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/25(日) 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/29(木) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)