
NHK交響楽団の2025-26シーズンは翌年の創立100周年に向けて弾みをつける一年だ。首席指揮者ファビオ・ルイージを中心に、豪華出演者陣がそろった。以下、月ごとに注目公演を挙げてみよう。
まず、シーズン開幕となる9月は、ルイージ指揮のAプロに期待したい。彼にとって念願のフランツ・シュミットの交響曲第4番が演奏される。かねてよりこの作曲家に情熱を傾けてきたルイージの十八番だ。この日は名匠イェフィム・ブロンフマンとの共演によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」も演奏されるとあって人気を呼びそうだ。

10月の指揮者はヘルベルト・ブロムシュテット。Aプロでストラヴィンスキーの「詩篇交響曲」とメンデルスゾーンの交響曲第2番「讃歌」を組み合わせる。ともに宗教的題材による合唱付き交響曲だが、両曲を並べたプログラムは新鮮。世界最高峰のスウェーデン放送合唱団の共演がうれしい。Cプロではレイフ・オヴェ・アンスネスを独奏に迎えたブラームスのピアノ協奏曲第2番と、同じくブラームスの交響曲第3番が演奏される。研ぎ澄まされたブラームスを体験できるだろう。
11月は8年ぶりにシャルル・デュトワが定期公演に登場する。Aプロのホルストの組曲「惑星」や、Cプロのラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲で、N響から精緻なサウンドを紡ぎ出す。Bプロでは気鋭ラファエル・パヤーレがR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」を指揮する。かつてデュトワが率いたモントリオール交響楽団の現在の音楽監督だ。
12月はCプロでファビオ・ルイージがニルセンの交響曲第4番「不滅」をとりあげる。ニルセンも近年ルイージが力を入れる作曲家のひとり。さらに第19回ショパン国際ピアノコンクール優勝者がショパンの協奏曲のいずれかを演奏する。いったいどんな才能が見出されるのか、興味津々。

1月は巨匠への道を着実に歩むトゥガン・ソヒエフが招かれる。Aプロはマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。ソヒエフがN響でマーラーを振るのは初めて。マーラーの交響曲のなかでもとりわけ緊密で強靭な第6番をソヒエフはいかに描くのだろうか。
2月は3人の実力者たちがA、B、Cプロを振り分ける。Aプロは現在ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めるフィリップ・ジョルダン。得意のワーグナーの楽劇《神々のたそがれ》からの3曲で真価を発揮する。「ブリュンヒルデの自己犠牲」ではメトロポリタン・オペラ他で活躍するソプラノのタマラ・ウィルソンが共演する。Bプロはヤクブ・フルシャが再登場し、ブラームスのセレナード第1番他を指揮。今季よりロイヤル・オペラ音楽監督を務める多忙のフルシャを日本で聴ける機会は貴重だ。Cプロはゲルゲイ・マダラシュ。創立100年特別企画「邦人作曲家シリーズ」と銘打たれ、N響生みの親である近衛秀麿編曲によるムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」をとりあげてくれる。これは驚き。
4月のCプロも「邦人作曲家シリーズ」。下野竜也指揮により外山雄三の「管弦楽のためのディヴェルティメント」、伊福部昭の「交響譚詩」が演奏される。日本と縁のあるプロコフィエフとブリテンも取り上げられ、プログラミングの妙が光る。

5月のBプロでは先頃ベルリン・フィルへのデビューで話題を呼んだ山田和樹が登場する。「邦人作曲家シリーズ」の一環として、山田一雄の小交響詩「若者のうたへる歌」、須賀田礒太郎の交響的序曲、ヒンデミットの交響曲「画家マチス」他を指揮。21世紀のヤマカズの指揮で元祖ヤマカズを聴けるとは!
6月はヤープ・ヴァン・ズヴェーデン、ステファヌ・ドゥネーヴ、尾高忠明が指揮台にのぼる。CプロではN響初登場のHIMARIが尾高とシベリウスのヴァイオリン協奏曲で共演する。こちらもベルリン・フィルにデビューを果たしたHIMARIの出演とあって注目度は高い。
多彩なラインナップがそろった99年目のN響。今季も数々の名演に出会えることだろう。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2025年8月号より)
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp
※各公演のプログラムや発売日等の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

飯尾洋一 Yoichi Iio
音楽ジャーナリスト。著書に『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』新装版(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。音楽誌やプログラムノートに寄稿するほか、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザーなど、放送の分野でも活動する。ブログ発信中 http://www.classicajapan.com/wn/


