関西が誇る最強タッグ・尾高忠明&大阪フィルが「城下町ツアー」を開催

4月4日から、和歌山、彦根、姫路を巡る

尾高忠明 (c)飯島隆

 関西を代表するオーケストラ、大阪フィルハーモニー交響楽団が「城下町ツアー2025」として、和歌山彦根姫路の三都市を訪れるツアーを行う。史跡和歌山城、国宝の彦根城、同じく国宝の姫路城と関西の名城をたどる特別演奏会だ。
 指揮は音楽監督の尾高忠明。多くのオーケストラから信頼を寄せられる名匠は、2018年より大阪フィルの第3代音楽監督を務めている。共演を重ねるごとにオーケストラとの絆を深め、尾高は同楽団との関係性について「家族の一員になった」とたびたび語っている。もとより高い演奏水準を誇る大阪フィルであるが、オーケストラから重厚さと精緻さを兼ね備えたサウンドを引き出すことで、楽団をさらなる飛躍へと導いている。

大阪フィルハーモニー交響楽団(c)飯島隆

 今回の「城下町ツアー2025」では、モーツァルトの歌劇《魔笛》序曲とヴァイオリン協奏曲第3番(独奏は三浦文彰)、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」セレクションが演奏される。いずれも親しみやすく、多くの人々に楽しんでもらえる選曲だ。チャイコフスキーは生涯にわたってモーツァルトを敬愛していたが、そんな大作曲家同士の結びつきも背景に感じられる絶妙な組み合わせである。

若手ヴァイオリニストの筆頭格・三浦文彰によるモーツァルトの協奏曲

 モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番で独奏を務める三浦文彰は、若い世代を代表する名手。両親ともヴァイオリニストという音楽一家に育っており、東京フィルのコンサートマスターである三浦章宏を父に持つ。2009年に難関のハノーファー国際コンクールで史上最年少の16歳で優勝を果たして一躍国際的な注目を浴び、以来、ロサンゼルス・フィル、ロイヤル・フィル、ロイヤル・リヴァプール・フィル、フランクフルト放送響などの一流オーケストラと共演を重ね、音楽家としての成熟を深めつつある。2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』では、オープニング・テーマでヴァイオリンのソロを演奏して話題を呼んだ。幅広いレパートリーを誇るが、モーツァルトはとりわけ愛着を持つ作曲家のひとり。すでにレコーディングも行っているヴァイオリン協奏曲第3番では、練り上げられた解釈を聴かせてくれることだろう。洗練された技巧と伸びやかな音色を堪能したい。

三浦文彰 (c)Masahiro Uto

 この作品は1775年、作曲者19歳の年の作品だ。ふつうの作曲家であれば「若書き」の作品とみなされかねない年齢だが、早熟の天才であったモーツァルトはすでにこの時点で天衣無縫の音楽を書いている。モーツァルトの5曲のヴァイオリン協奏曲はすべて10代の一時期に書かれているが、作曲家としてもっとも大きな成長を感じられるのが、この第3番だろう。とりわけ第2楽章アダージョの陰影に富んだ曲想は傑出している。名手の演奏で聴くことで、モーツァルトの偉大さをいっそう実感することができるにちがいない。

チャイコフスキー「白鳥の湖」の尾高による特別セレクション

 今回の演奏会では、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」をマエストロ尾高のセレクションで聴くことができるのも大きな魅力だ。「白鳥の湖」といえば、バレエ音楽の歴史を変えた大傑作。ほとんどバレエの代名詞といってもよいくらいの知名度と人気を誇り、世界中の劇場で盛んに上演されている。しかし、この曲をコンサートで演奏するときには「長いバレエの全曲から、どの曲を演奏するか」という問題がある。一般にこういったバレエ音楽では演奏会用組曲が用意されるものであるが、「白鳥の湖」については作曲者本人が組曲を編む意思を見せながらも実現せず、他人の手による組曲しか残っておらず、しかも決定版といえるほどの支持を得られていない。そこで指揮者によっては独自の判断による選曲で「白鳥の湖」組曲を演奏することも珍しくない。

 今回は尾高忠明による全10曲からなるセレクションが用意される。既存の組曲ではもともとのバレエに登場する順序にこだわらない曲順になっているが、この10曲はバレエの筋立てに添った順序で並んでいる。オーボエの物悲しい旋律があまりに有名な「情景」や、流麗な「ワルツ」、聴けばたちまち横に並んで踊る白鳥の姿が思い浮かぶ「四羽の白鳥の踊り」といった名曲中の名曲をしっかりと押さえつつ、冒頭の音楽や、ドラマティックなフィナーレを用いて、バレエ全体の大きな流れが感じられるようになっているのが特徴だ。華やかなバレエのハイライトとして楽しめると同時に、まるで交響曲のような濃密さとスケールを持った音楽としても聴くことができるのではないだろうか。

 関西が誇る名コンビとなった尾高&大阪フィル。その充実ぶりを極上の名曲で体験したい。

文:飯尾洋一

大阪フィルハーモニー交響楽団
城下町ツアー2025




2025.4/4(金)18:30 和歌山城ホール
問:和歌山城ホール073-432-1212
https://www.wakayama-johall.jp

4/5(土)16:00 ひこね文化プラザ グランドホール
問:ひこね市文化プラザ0749-27-5200
https://www.bunpla.jp

4/6(日)15:00 アクリエひめじ
問:大阪フィル・チケットセンター06-6656-4890
https://www.osaka-phil.com

出演
尾高忠明(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団
三浦文彰(ヴァイオリン)

曲目
モーツァルト:歌劇《魔笛》より「序曲」、ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調
チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」セレクション