ヴァイオリニスト白井圭が語る日独精鋭“小さなオーケストラ”の魅力

 ドイツと日本の俊英が集まったルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ・シュトゥットガルト。そもそもはシュトゥットガルト放送交響楽団のコントラバス奏者として活躍する幣隆太朗がベートーヴェンの傑作「七重奏曲」を聴いて感動し、いつかこの曲を仲間たちと演奏したいと熱望したところから始まった。そして、様々な出会いを重ねてメンバーが集まり2013年に結成。レアな編成の室内楽グループである。「シュトゥットガルト」の名が冠されたのはシュトゥットガルト放送響に在籍するメンバーが多いからだが、日本からも白井圭(ヴァイオリン)、横坂源(チェロ)が参加している。この秋も興味深いプログラムを携えて日本公演を行うので、白井に話を聞いた。

 「今年はベートーヴェンとシューベルトの大作は演奏しないのですが、クルタークとビーバーを組み合わせるなど興味深いプログラムになったと思います。特にビーバーは、以前も編曲を担当してくれたウッキさんによる作品なのですが、どんな風に響くのか、僕たちも楽しみにしています」

 ビーバーはバロック音楽ファンなら馴染みのある名前だと思うが、一般には知られていないだろう。

 「バロック時代の作品をこのグループで演奏するのは初めてになりますし、それと現代の作曲家クルタークを組み合わせるという発想がとてもユニークです。ただ、ビーバーはけっこう変則的な調弦が多いので、弦楽器は演奏が難しくなるのかな」

 クルタークは彼の「サイン・ゲームとメッセージ」からの抜粋となるようだけれど、楽しみである。それ以外はシューベルト「イタリア風序曲第1番」、ベートーヴェンの「マカベウスのユダ」の主題による12の変奏曲、モーツァルトのセレナーデ第12番、そしてシュトラウスの《こうもり》序曲が並ぶ。

 「ベートーヴェンは誰もが知るメロディを変奏曲にしたものなので、『ああ、あれか』と思って楽しんでいただける作品でしょう。《こうもり》序曲もよく皆さんが耳にされる音楽だと思いますが、実はメンバー内でいろいろと音楽的なアイディアの違いが出てきます。それは『ウィーン的とは何か?』をめぐっての考え方の違いとも言えるのですが、そういう対話の過程を経て、実際の演奏会を迎えているということも知っていただくと、より本番での演奏が興味深くなるかもしれません(笑)」

 実際のコンサートでは、彼らのモットーである「興奮を呼び起こす名人芸と、心からの演奏する喜び」をまさに体感できる演奏が展開されて、作品の魅力が迫ってくる。個性的な奏者の集まったグループ、弦と管が集まった小さなオーケストラともいえる彼らの演奏にはいつも新しい発見がある。

 今回の公演では、結成時から参加しているホルン奏者のヴォルフガング・ヴィプフラーが最後の出演となる。また、白井は2023年までNHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務めていたが、現在はコンマスとしてオーケストラに客演したり、室内楽ではトリオ・アコード、シュテファン・ツヴァイク・トリオで活動している。また自身が主宰する鵠沼音楽アカデミーでは教育活動も展開。彼の今後の演奏活動にも注目していきたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2024年11月号より)

ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ・シュトゥットガルト
2024.11/12(火)19:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:クレオム info@creomu.com 

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他公演 
11/10(日) 佐賀/焱の博記念堂 文化ホール(0955-46-5010)