オペラ・アリア&スメタナ「わが祖国」、夢の名曲選――梅田俊明指揮、東京交響楽団 第11回八王子定期が開催!

日本を代表するオペラ歌手、佐藤美枝子(ソプラノ)&錦織健(テノール)が出演

文:室田尚子

 2016年にスタートした東京交響楽団の八王子定期演奏会。以来回を重ね、この11月4日にJ:COMホール八王子で11回目の演奏会を開催する運びとなった。今回指揮を務めるのは、ウィーンでオトマール・スウィトナーに師事し、帰国後は日本センチュリー交響楽団や仙台フィルハーモニー管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を歴任した梅田俊明。特に仙台フィルでは2000年に常任指揮者に就任してから2006年に退くまで、オーケストラの発展に力を注いだ。東京交響楽団ともたびたび共演しており、関係はすこぶる良好だ。

梅田俊明 ©K.Miura

 「至極のオペラ名曲選」と題されたコンサートの前半では、ソプラノの佐藤美枝子とテノールの錦織健がゲストに迎えられ、オペラ・アリアや重唱を存分に楽しむことができる。佐藤は、1998年に第11回チャイコフスキー国際コンクール声楽部門で日本人として初めての優勝を飾って以来、藤原歌劇団や日本オペラ協会をはじめとする数々のオペラの舞台で活躍してきたソプラノ。7枚のCDもリリースするなど、今や日本のオペラ界になくてはならないプリマドンナである。対する錦織は1986年に喜歌劇《メリー・ウィドウ》のカミーユ役でデビューを飾り、以後、オペラの舞台はもちろんのこと、NHK紅白歌合戦をはじめとするテレビやラジオの出演などを通して、オペラを日本中に広める活動を続けてきた稀有なテノールである。2002年からは自らオペラのプロデュースも手がけるなど、その活躍の幅は広い。

佐藤美枝子
錦織 健 ©大八木宏武(都恋堂)

 今回、佐藤が歌うのは、プッチーニの歌劇《ラ・ボエーム》から「ムゼッタのワルツ」として知られる〈私が街を歩くと〉。「私が街を歩けばみんなが見とれるわ…私は人々の熱望を浴びて幸せになるの」という官能的な雰囲気の歌詞を甘美なメロディで綴っていく。もう1曲はドリーブの歌劇《ラクメ》から〈鐘の歌〉で、これは佐藤がかつて国際コンクールの一次予選で歌った曲。「あらゆる声楽的なテクニックが必要」という曲だけに、彼女の実力を存分に堪能できるにちがいない。
 一方の錦織は、モーツァルトの歌劇《魔笛》から王子タミーノの〈何と美しい絵姿〉を歌う。「大好きな役で、ハマり役だといばりたいところ」と語る錦織の、柔らかい美声に酔いしれたい。さらにビゼーの歌劇《カルメン》からドン・ホセが歌う〈花の歌〉も、リリック・テノールの魅力をたっぷりと味わえる曲。同作からはオーケストラによる有名な前奏曲も予定されている。そして、佐藤と錦織が声を重ねるヴェルディの歌劇《椿姫》から〈乾杯の歌〉は、オペラ・ファンならずとも胸がワクワクしてくることだろう。

 今年は、“チェコ国民音楽の祖”といわれるベドルジハ・スメタナの生誕200年にあたっている。今回の八王子定期演奏会では、それを記念して代表作である連作交響詩「わが祖国」から〈ヴィシェフラド(高い城)〉〈ブルタヴァ(モルダウ)〉〈ボヘミアの森と草原から〉の3曲を取り上げる。スメタナが1879年に完成させた「わが祖国」は、チェコの風景や歴史、伝説を題材にした6曲の交響詩からなる作品。当時のチェコの聴衆には馴染みの薄かった「交響詩」というジャンルに挑戦したスメタナは、この作品に自らの持てる力を注いでいる。梅田は「わが祖国」について「自然描写からは光と影、舞曲からは民族衣装をまとった人々の表情に想像が膨らみ、聴力を失ってもなお書き続けたスメタナの愛国心に感動を覚えます」と語る。

東京交響楽団 ©青柳 聡

 第1曲はプラハにあるヴィシェフラド城を描いているが、「ヴィシェフラド」という言葉は「高い城」を意味している。スメタナはこの曲の作曲中に聴力を失うという悲運に見舞われるが、その筆が止まることはなかった。学校の音楽の教科書にも載るほど日本ではよく知られている第2曲〈ブルタヴァ(モルダウ)〉は、チェコを流れるブルタヴァ川の滔々たる流れを描く。そして第4曲〈ボヘミアの森と草原から〉は鬱蒼とした森や夏の日の様子、秋の収穫などチェコの田舎の風景がいきいきと描写され、後半は国民的舞踊でもあるポルカが繰り広げられていく。

 オペラ・アリアとオーケストラ、どちらのジャンルからもよく知られた親しみやすい作品が選ばれた東京交響楽団第11回八王子定期演奏会。最後に梅田からのメッセージをご紹介しよう。

「スメタナの代表作『わが祖国』には、当時恵まれた環境にあるとは言えなかったチェコの独立への渇望が根底にあり、それはどの国に生まれ育った人々にも共感を得られる強いエネルギーに満ちていると思います。佐藤美枝子さんと錦織健さんが歌い上げる有名なオペラアリアと同時に味わえるのも、大変贅沢な企画だと言えます。素晴らしい響きのホールで体感いただけますようお待ちしております」

【Information】

東京交響楽団 第11回八王子定期演奏会
2024.11/4(月・休)14:00 J:COMホール八王子

〇出演
梅田俊明(指揮)
東京交響楽団(管弦楽)
佐藤美枝子(ソプラノ)♦
錦織健(テノール)♠

〇曲目
―至極のオペラ名曲選―
モーツァルト:歌劇《魔笛》より序曲、〈何と美しい絵姿〉♠
プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》より〈私が街を歩くと〉♦
ビゼー:歌劇《カルメン》より前奏曲、〈花の歌〉♠
ドリーブ:歌劇《ラクメ》より〈鐘の歌〉♦
ヴェルディ:歌劇《椿姫》より〈乾杯の歌〉♦♠
―スメタナ生誕200周年―
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より〈ヴィシェフラド(高い城)〉、〈ブルタヴァ(モルダウ)〉、〈ボヘミアの森と草原から〉

問:八王子市学園都市文化ふれあい財団042-621-3005
https://www.hachiojibunka.or.jp