世界最高峰メトロポリタン・オペラ(MET)の最新公演を映画館で堪能できるMETライブビューイング。大好評の2014-15シーズンも佳境を迎えている。4/11(土)〜4/17(金)に上映されるのはMET初演となるロッシーニの傑作《湖上の美人》。現地ニューヨークのMETで観劇された音楽評論家・加藤浩子さんの現地レポートを、ジョイス・ディドナートやダニエラ・バルチェッローナらスター歌手の現地インタビューを交えご紹介!
絢爛豪華な「声の饗宴」!
ロッシーニ・ルネッサンスの成果を目撃!〜MET《湖上の美人》観劇記
(取材・文:加藤浩子)
予想通りだった。いや、予想をはるかに上回るといってもいい。METでこの3月に観劇したロッシーニの《湖上の美人》。「100年にひとり」と謳われるロッシーニ・テノール、J・D・フローレス、METを代表するロッシーニ・メッゾ、J・ディドナートなど粒揃いの顔ぶれから、極上の公演になることは想像していたけれど、まったくもって圧倒的だった。光り輝く声の個性はそのままに威厳を増したフローレスは恋に悩む国王役にふさわしく、ヒロイン、エレナ役のディドナートも、ナイーヴで誠実な「湖上の美人」を深く情感ゆたかに演じ切った。ロッシーニのズボン役でトップスターに躍り出たD・バルチェッローナの完璧かつ華のある歌唱、恋のライバル役を担ったJ・オズボーンの超絶技巧と、まさに声の饗宴。ロッシーニの申し子M・マリオッティの指揮も絶妙で、陶酔の2時間半余はあっという間に飛び去った。衣装も豪華で美しく、スコットランドの雄大な自然を思わせる装置も雰囲気満点。1819年に初演された《湖上の美人》、今回がMET初演に当たるが、到底信じられない水準の高さである。今のロッシーニ歌手の充実ぶりは、ロッシーニ当時以来なのではないかと思わせられた公演だった。
「この作品はロッシーニのなかでも特別」だというディドナートは、その理由を、「(原作の)ウォルター・スコットの詩句や、スコットランドの風景にインスパイアされて、ロッシーニの作品のなかでももっとも創意に満ちた楽譜のひとつ」になっているからだという。バルチェッローナは、ロッシーニの魅力は「高音や急速なアジリタ、2オクターブにわたるカデンツァといった超絶技巧が与える直接的な快楽」に加え、「そのような技巧が感情を表現するところにある」という。「《湖上の美人》には、怒りや嫉妬、愛、許し、哀願といった人間のありとあらゆる感情が、ロッシーニならではの方法で描かれているのです」(バルチェッローナ)。
皆が許されて大団円を迎え、感謝に満ちてエレナが歌う幕切れのアリア「胸の想いは満ちあふれ」は、ロッシーニ流の感情表現の最たるものだろう。ディドナートはこのアリアを「誰もが得ることができる平和の歓びへの讃歌」だと語っている。ディドナートのような深い感受性の持ち主を歌い手に得たからこそ、このアリアのもつ感動的な面が際立ったと思う。
未知の作品に、聴衆は熱狂した。長く、熱烈なカーテンコール。「ロッシーニ・ルネッサンス」の成果を目撃した、早春のMETの一夜だった。
《湖上の美人》に続くMETライブビューイング最終作は、《カヴァレリア・ルスティカーナ》《道化師》の二本立て。ロッシーニとはがらりと異なるドラマティックな世界を、METならではの豪華キャストで体験できる絶好のチャンスだ。
【METライブビューイング2014-15 今後の上映】
第9作 ロッシーニ《湖上の美人》MET初演
4/11(土)〜4/17(金)
指揮:ミケーレ・マリオッティ
出演:ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス、ダニエラ・バルチェッローナ 他
第10作 《2本立て》マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》/レオンカヴァッロ《道化師》新演出
5/23(土)〜5/29(金)
指揮:ファビオ・ルイージ(両作共通)
出演:マルセロ・アルヴァレス(両作共通)