心揺さぶる“マダム・バタフライ”がふたたび
この6月、ソプラノ森麻季は英国でプッチーニのオペラ《蝶々夫人》に主演し絶賛された。舞台は山田和樹指揮のバーミンガム市交響楽団による演奏会形式上演で、相手役のピンカートンはテノール界のスター、ペネ・パティ。森は着物姿で歌い通し、〈愛の二重唱〉や名アリア〈ある晴れた日に〉で大喝采を浴びたのだそう。地元紙の『バーミンガム・プレス』にも「胸が張り裂けるようなパフォーマンス」と賞賛されていた。
デビュー以来、繊細な歌いぶりを貫く森。筆者はいまだに、彼女の声を初めて聴いた記憶—ドリーブ《ラクメ》の〈鐘の歌〉の神秘的なヴォカリーズ—が耳に焼き付いているが、彼女の声の柔らかさや透明感は、いまも全く変わらぬまま。しかし、近年の森は、歌い回しを逞しくすることにも成功し、ドラマティックな蝶々さんの役でも、客席を揺さぶることができている。先述のバーミンガムに発つその直前にも、彼女は調布国際音楽祭で《蝶々夫人》の抜粋を歌い、ピアニストの山岸茂人と共に、集中力の塊のような演奏を繰り広げたが、そうした実演の積み重ねがいま、大きな実りの時を迎えているのだろう。
この9月、森麻季は「愛と平和への祈りをこめて Vol.14」と題するコンサートを開催。没後100年のフォーレや生誕100年の團伊玖磨のほか、没後50年のミヨーの清々しい歌曲を歌い上げ、後半が待望の《蝶々夫人》ハイライト。熱いチャレンジ精神の上に花開く、劇的な歌の世界をお聴き逃しなく!
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年9月号より)
2024.9/16(月・祝)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp