名曲で聴く名匠のさらなる深化
人は本物に触れるとさらなる向こうには何があるのかを思い、希求してしまうものだ。エリアフ・インバル&都響は、曲が何であれ堂々とした威容の音楽を聴かせ続けてくれている安定のコンビ。その彼らが3月の定期演奏会で取り上げるのはワーグナーとブルックナー。それなら(CDでもコンサートでも)何度も聴きました、という方が多いのかもしれない。このコンビであればある程度、高いクオリティの演奏が予想できるという熱心なファンもいるだろう。しかし高峰の向こうには新しい風景が広がっているものであり、それが聴き慣れた名曲であるほど感銘も深まるのだ。
ワーグナーは混沌とした和声の中にドイツ・ロマン派の新時代が見える《トリスタンとイゾルデ》から「前奏曲と愛の死」、ブルックナーは抒情的なメロディと古典的な造形美が絶妙なバランスで昇華している交響曲第4番「ロマンティック」。2人の作曲家を知るリスナーであればあまりに定番の2作品であり、しかもブルックナーは「ノヴァーク校訂版、1878/80年稿」という最もスタンダードなスコアをチョイス。だからこそ! の揺るぎなさを聴き、突っ込みどころが見つからないほど深い感動が用意されているコンサートになると言えるだろう。なお今回は都響の創立50周年を祝い、東京での定期に先立って名古屋および福岡でも同じプログラムが演奏される。CDでしかこのコンビを聴いたことがないという方、崇高なオーラを浴びるチャンスだ。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)
東京都交響楽団 創立50周年記念 名古屋特別公演
3/14(土)14:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
東京都交響楽団 創立50周年記念 福岡特別公演
3/15(日)15:00 福岡シンフォニーホール
第784回定期演奏会 Aシリーズ
3/18(水)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp