音楽の都、春のウィーンの誘惑

文:小宮正安

 ウィーンの5月は弾ける。
 3月も終わりになると、厳しかった冬が過ぎ去り、4月には駆け足で、花が咲き緑の芽吹く春がやって来る。そして5月は、抜けるような青空と燦燦と輝く太陽の下、初夏の陽気ともいえる日も増えてくる。3月末からサマータイムも始まっているため、昼間が長く、ようやく夜9時を回ったころに日が暮れ始めるほど。戸外に設えられたレストランやカフェのオープンテラスは、鮮やかな陽の光を求める人々で、朝から夕方までごった返す。

ウィーン郊外、新緑鮮やかなベートーヴェンの散歩道

 そんな陽気に誘われるかのように、芸術関係のイヴェントも目白押しになって来る。「ウィーン祝祭週間」などはその典型。元々、市庁舎の中庭をメイン会場に始まっただけのことはあって、屋内戸外を問わず、ウィーンのそこかしこで、オペラをはじめ演奏会、演劇やダンス、ワークショップや展覧会など、多種多様な催しが繰り広げられる。
 いや、特に「ウィーン祝祭週間」による催しではなくても、それこそウィーン市内に存在する様々なコンサートホールや劇場では、百花繚乱のプログラムが目白押しだ。
 その1つこそ、この街を代表する音楽の殿堂、ウィーン楽友協会の大ホールで上演される「第九」の演奏会だ。ムーティの指揮、ウィーン・フィルの演奏にウィーン楽友協会合唱団が加わるとなれば、それだけで音楽ファン垂涎の的だが、今回の演奏会にはそれ以上の意味がある。2024年5月7日は、ベートーヴェン自身の指揮の下、ウィーンで「第九」が初演されてからちょうど200年目に当たるからだ。
 しかもこの初演を担当したのは、ウィーン・フィルの母体であるウィーン国立歌劇場管弦楽団の前身である宮廷楽団の団員達。さらにウィーン楽友協会の会員たちも、合唱やオーケストラのメンバーとして加わった。またそんな歴史と伝統が脈々と息づくウィーン・フィルの調べとウィーン楽友協会が共演をするとなると、今回の演奏会は単なるスター音楽家たちを迎えた一大イヴェント以上の意味がある。文字通り、千載一遇の機会に他ならない。

 そして、ウィーン国立歌劇場で上演される『フィガロの結婚』。同劇場の前身にあたる宮廷劇場で、作曲者のモーツァルト自身がこのオペラを指揮したのも、1786年のまさに5月だった。まただからこそ、ウィーン国立歌劇場も長年にわたってモーツァルト演奏にかけては人後に落ちない誇りと水準を保ってきた。さらに今回は、2025年のシーズンで同歌劇場の音楽監督の地位から去るジョルダン。コロナ禍の困難にありながら、2020年以来このポストにある彼が、同歌劇場の勝負レパートリーでどのような指揮をしてくれることか。
 もちろん5月の魅力は、音楽や芸術の世界だけにとどまらない。四季の変化が少ないと言われるヨーロッパの中にあっても、いやいやどうして。食の世界でもそれぞれの時期にしか味わえない「旬」があり、この時期の名物とくれば「アスパラガス」だ。

 アスパラガスといえば、ヨーロッパでは通常そうであるように、ウィーンでも白アスパラが定番だ。大きさ太さともに実に立派で、味も濃い。それこそ、山ウドを思わせるような存在感を発揮していて、野菜というよりは山菜に近いのだろう。そんな白アスパラの食べ方だが、卵の黄身から作ったオランデーズソースでメイン料理にするもよし、肉料理や魚料理の付け合わせにするもよし。幾つもの味わい方ができるのも、魅力的である。

 そうなのだ。「幾つもの」、これはウィーンの秘められた魅力である。その昔、この街を都としていたハプスブルク家が、現在のオーストリアだけでなく、ヨーロッパ中に勢力を広げていたのがその理由。つまりウィーンは世界の中でも有数の、古くからの多民族多文化都市だった。まただからこそ、この街を目指してヨーロッパの津々浦々から、大勢の人々がやってきた。音楽家にしてもそう。べートーヴェンは現在のドイツはボンの生まれであるし、モーツァルトの出身地のザルツブルクも、現在とは異なって小さいながられっきとした国の都だった。
 そう考えると、ウィーンはいわば「よそ者」によって作られた街だ。だがそうであるからこそ、彼らは異なる言語や習慣を持っており、場合によっては衝突しかねない。そんな事態を回避し、調和の世界を築くにはどうすればよいか?
 その答えの1つが、街中のちょっとした広場や中庭に、皆が集えるようなスペースを作ること。しかも単に集まるだけなく、そこで飲食ができたり、時には音楽が聴けたりするようであれば、なお快適だ。今流行りの「コミュニティ・スペース」などという言葉がなかった時代から、ウィーンではそうした空間が随所に姿を現した。人呼んで「グレッツェル」。そしてこのグレッツェルこそは、ウィーンらしさを、さらにはウィーンの知恵を今に伝える存在として、ウィーン子だけでなく、多くの観光客を魅了している。
 「第九」を通じて人類愛を歌い上げたベートーヴェン。その崇高な世界と、さりげなく共振し合うウィーンの街並みは、紛争や不寛容にあけくれるこの時代にあって、より輝きを増している。

Message from Christina

© Martina Siebenhandl

Dear valued Guests,

in my work for the Vienna Tourist Board the most difficult question for me to answer is “When is the best time to visit Vienna?”.
Truly, every season has something special to offer to visitors: from the roses blooming in the many city gardens during spring, boat rides along the Old Danube in summer, wine tasting at the local taverns in autumn or visiting the Christmas markets in winter.
We hope to welcome you soon in Vienna!

Best wishes,
Christina Freisleben


 ウィーン市観光局での仕事の中で、私にとって答えるのが最も難しい質問は、「ウィーンを訪れるのに最適な時期はいつですか?」です。
 春には市内の多くの庭園に咲くバラ、夏には旧ドナウ川沿いのボート遊び、秋には地元の居酒屋でのワインの試飲、冬にはクリスマスマーケットの訪問など、どの季節も訪問者に特別なものを提供します。
 ウィーンでお迎えできることを楽しみにしています。

ウィーン市観光局
クリスティーナ・フライスレーベン


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