東京フィルハーモニー交響楽団 2024シーズン 定期演奏会の聴きどころ

指揮者とソリストともに盤石の布陣で注目公演目白押し!

 東京フィルハーモニー交響楽団が2024シーズン定期演奏会のラインナップを発表した。その豪華な陣容、まったくもって隙がない。それこそ「毎回が特別な演奏会」といってもおかしくないほどだ。

©上野隆文
上段左より:チョン・ミョンフン ©上野隆文/ミハイル・プレトニョフ©上野隆文/
アンドレア・バッティストーニ ©上野隆文
下段左より:ダン・エッティンガー ©Froehlingsdorf/出口大地 ©上野隆文

 とりわけ名誉音楽監督チョン・ミョンフンが登場する3種のプログラムには要注目だ。マエストロがもっとも得意とするレパートリー、しかも大曲を出し惜しみなく注ぎ込み、いわばこの指揮者とオーケストラの集大成というべき公演が続く。

 2月公演(2/22, 2/25, 2/27)では、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」とストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」を組み合わせる。自然がもたらす穏やかな喜びと、それが引き起こす爆発的な高揚感。まだ肌寒い季節だが、春の息吹もたっぷりと感じられるはずだ。

 6月公演(6/23, 6/24, 6/26)は、メシアンの偉大なる代表作「トゥランガリーラ交響曲」。マエストロとパリ・オペラ座バスティーユ管弦楽団との演奏に、晩年の作曲家が激賞したという作品でもある。色彩とリズムの氾濫のなかに情感、歌心をも通わす——こんなメシアンを奏でてくれるのは世界でも彼一人だけだ。日本の誇るオンド・マルトノの名手である原田節、鋭い感性が光るピアニスト務川慧悟との共演も頼もしい。

上段左より:原田 節 ©Yutaka Hamano/務川慧悟 ©M.Yamashiro/
セバスティアン・カターナ
下段左より:ヴィットリア・イェオ ©Sergio Ferri/
アレックス・エスポージト ©Victor Santiago/ステファノ・セッコ

 もちろん、マエストロ・チョンといえば、イタリア・オペラも忘れてはいけない。9月(9/15, 9/17, 9/19)には、ヴェルディの歌劇《マクベス》を取り上げる。これまでの《ファルスタッフ》や《オテロ》に続く、シェイクスピア原作の作品だ。演奏会形式ならではの細部まで練り上げた表現の数々に、熱気をはらんで進んでいくドラマ。今回もオペラ・オーケストラとしての東京フィルの実力を引き出してくれよう。

 マクベス役には、2022年の《ファルスタッフ》の題名役も好評だったセバスティアン・カターナを起用。マクベス夫人にヴィットリア・イェオ、バンクォーはアレックス・エスポージト、マクダフにはステファノ・セッコなど、歌手陣も豪勢だ。

 首席指揮者のアンドレア・バッティストーニも大曲で勝負する。3月(3/10, 3/13, 3/15)は、レスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア」第2組曲に、オルフの世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」。魅惑の擬古典プログラムだ。持ち前のカンタービレと爆発力がひときわ輝くこと間違いない。「カルミナ・ブラーナ」では、イタリアから呼んだヴィットリアーナ・デ・アミーチス(ソプラノ)とミケーレ・パッティ(バリトン)に加え、鬼才のカウンターテナー彌勒忠史の起用に胸が高鳴る。

上段左より:ヴィットリアーナ・デ・アミーチス ©Giada Sponzilli/
ミケーレ・パッティ/彌勒忠史
下段左より:マルティン・ガルシア・ガルシア ©Darek Golik(NIFC)/
阪田知樹 ©Ayustet/服部百音 ©YUJI HORI

 11月公演(11/13, 11/17, 11/19)は、マーラーの交響曲第7番の一本勝負。東京フィルとのマーラーは、これまで第1、5、8番の交響曲を取り上げてきたバッティストーニ。深い関係性を築いてきた彼らが、マーラーによる器楽交響曲の総本山に真正面から挑む。心躍らぬわけがない。

 特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフもやって来る(1/23, 1/25, 1/28)。2023シーズンでは円熟の表現でラフマニノフを聴かせてくれたが、今回は北欧プログラム。シベリウスの交響曲第2番をメインに、グリーグのピアノ協奏曲では、2021年のショパン国際ピアノコンクールで名を馳せたマルティン・ガルシア・ガルシアを迎える。

 さらに嬉しいニュースが。桂冠指揮者ダン・エッティンガーの久々の登場だ(7/24, 7/28, 7/29)。「サマーミューザ」などで共演を重ねていたものの、彼が定期公演の指揮台に上がるのは、なんと10年ぶり。気鋭のピアニスト阪田知樹とのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番に、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。オーケストラを重厚に鳴らしつつ、より風格を増した演奏を期待していいのではないか。

 若手枠は出口大地だ。ハチャトゥリアン国際指揮者コンクールで優勝した彼は、ハチャトゥリアン・プログラムで2022年の定期演奏会で日本デビューを果たし、熱狂で迎えられた。今回の10月公演(10/17, 10/18, 10/20)では、ハチャトゥリアン(アルメニア)、ファジル・サイ(トルコ)、コダーイ(ハンガリー)による民族色を存分にアピールした音楽を披露する。サイのヴァイオリン協奏曲「ハーレムの千一夜」の独奏は服部百音。集中力みなぎる熱演が繰り広げられることだろう。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2024年1月号より)

問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
https://www.tpo.or.jp
*2024シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。