中井恒仁(ピアノ)

シリーズのラストは2台ピアノ版の「ハイドン変奏曲」で

 2004年にスタートした『中井恒仁のブラームス ピアノ全曲(ソロ・連弾・2台)シリーズ』が10年目を迎える今年、第8回をもっていよいよ完結する。
「ブラームスの楽譜から受け取ったものを奇を衒うことなく素直に表現し、お客様にできるだけ共感していただけるように演奏したいという想いは、10年間変わっていません。一方で近年は、自分の軸を持ちつつも、その時々のホールの雰囲気や楽器の状態などに呼応して、より自由度の高いブラームスの音楽を演奏できるようになりました」
 ソロのみならず連弾とデュオをも含むプログラミングには、毎回工夫を凝らしてきた。
「ブラームスを多面的にご紹介しようと、初期と後期の作品を組み合わせてきました。今回はまず、出版した作品中最も若い時に書いた『スケルツォ』作品4を演奏します。当時18歳のブラームスはピアニストとしての活動も真剣に考えており、この曲はエネルギーと華やかさに満ちています。もう一曲のソロは、彼の最後のピアノ曲となった『4つの小品』作品119です。僕にとって特別な曲で、大学院修了時、国際コンクール、東京でのデビューリサイタルなど、節目ごとに弾いて来ました。内省的で、晩年のブラームスが人生を振り返っているかのようなこの曲に、僕は弾く度ごとに新鮮な気持ちで臨んでいます」
 ブラームスの全ピアノ曲の4割は連弾・2台ピアノが占め、このシリーズではそのすべてを妻でありピアニストの武田美和子と共演してきた。今年は二人のデュオ結成15周年でもある。武田は「デュオの作品には、ブラームスの人間関係における愛情や誠実さを感じます。二人で演奏するからこそ広がるブラームスの響きがありますね」と語る。
 今回は、弦楽六重奏曲第1番の連弾版という珍しい一曲が披露される。ブラームス自身によるアレンジだ。
「バランスや音の動きがピアノならではの持ち味もあり、連弾だけに中音域の響きに厚みがあって、原曲の六重奏の雰囲気もよく伝えています」
 最終回の2台ピアノ作品にと決めていたのは『ハイドンの主題による変奏曲』。
「オーケストラ版のように様々な音色を意識する部分と、ピアノだからこそ可能となるスピード感やダイナミックさを意識する部分とがあります。ブラームスの変奏曲は、和声使いや発展の仕方に目を見張るものがありますね。彼の見事な構築力、繊細さ、ロマン派ならではの表情の豊かさを、あらためて感じていただけたら嬉しいです」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

中井恒仁のブラームス ピアノ全曲(ソロ・連弾・2台)シリーズ第8回〜最終回
11/13(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
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