マエストロゆかりの交響曲を北欧の名品とともに
吉松隆リバイバルの機運が高まっている。各地のオーケストラが交響曲をはじめとする管弦楽曲を次々と取り上げているのだ。原田慶太楼のような人気若手指揮者が新たにその音楽に注目しているが、一方、ベテラン・藤岡幸夫は吉松の創作に伴走し、多くの作品を世に送り出してきた伝道師といえるだろう。そんな藤岡が、首席客演指揮者を務める東京シティ・フィルの6月定期で交響曲第3番を振る。
本作はクラシックのみならずジャズやロック、民族音楽からアヴァンギャルドに至るまで、吉松の音楽性を形作ってきたあらゆる要素を盛り込んだ、全4楽章約45分の大作だ。女性性を表した前作、ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」に対し、男性性をシンボライズするという作曲家の言葉通り、ダイナミックで力強い曲調を持つ。
本作は藤岡がBBCフィルを相手に1998年に録音初演し、彼に献呈されている。当時、世紀末の日本で交響曲を発表することに絶望していた吉松を、イギリスという地へ、そして交響曲完成へと導いた藤岡は、まさに作品完成の陰の立役者というわけなのだ。創作の裏側までも知り尽くした、パッションあふれる演奏に期待がかかる。
演奏会冒頭には藤岡が得意とし、吉松が愛するシベリウスの「悲しきワルツ」がおかれているが、次の務川慧悟の弾くグリーグのピアノ協奏曲もこの日のもう一つの聴きどころだ。務川といえば、近年ロン=ティボー=クレスパン国際、エリザベート王妃国際と難関コンクールで立て続けに上位入賞し注目を集める逸材で、日本とヨーロッパを拠点に活動の幅を広げている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年6月号より)
※首席客演指揮者 藤岡幸夫は、肺炎により1週間程度の入院治療が必要との医師の診断を受けたため、出演することができなくなりました。当公演は以下の通り出演者を変更して開催されます。
指揮:高関健(常任指揮者)*、山上紘生(指揮研究員)**
曲目:
シベリウス/悲しきワルツ 作品44*
グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 作品16*
吉松隆/交響曲第3番 作品75**
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(6/8主催者発表)
第361回 定期演奏会
2023.6/9(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp