「女の愛と生涯」の物語にシューマン夫妻の佳品を編み込んで
バッハ・コレギウム・ジャパンとの度重なる共演でもおなじみの英国のソプラノ、キャロリン・サンプソン。現代作品まで幅広いレパートリーを持つ彼女だが、ずっとバロックを主戦場としてきたという見方に異論を唱える人はいないだろう。そのサンプソンが近年積極的に取り組んでいるのが歌曲のレパートリー。録音でも2015年以降、最新盤のシューベルト集まで、歌曲アルバムをハイペースでリリースしている。5月に王子ホールで歌うのも、2年前にリリースした『女のためのアルバム』と同じ構成によるシューマン夫妻の歌曲集。選曲と構成がアイディアに満ちている。
シューマン「女の愛と生涯」の8曲をベースに、ロベルトやクララの他の歌曲やピアノ曲を加えて、シャミッソーの描いたヒロインの人生を、複眼的に、より充実したイメージで浮かび上がらせる全31曲のプログラム。
これはコンテキストの拡充という意味だけでなく、クララが夫の作品を広めるために、彼の作品をどのように紹介していたのかを提示することにもなっているのが興味深い。歌でもピアノでも、シューマンは多くを「曲集」の形の連作として発表したが、クララは、そこから個々のナンバーを取り出して組み合わせ、より変化に富んだプログラムを作り出したといわれる。サンプソンはそれを再現しているのだ。
ピアノは歌曲ピアノの名手ジョゼフ・ミドルトン。ライブでもCDでも、歌曲でのサンプソンの欠かせないパートナーだ。
文:宮本明
(ぶらあぼ2023年5月号より)
2023.5/11(木)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp