高関健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

シーズン・オープニングは平和への願いを込めて

 高関健の東京シティ・フィル常任指揮者のポストも、好評を得て9年目に入った。今回のシーズン・オープニングは、第二次世界大戦前後に書かれた追悼の音楽を集め、ストレートなメッセージを込めた。

 ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」は、1940年に日本で行われた皇紀2600年記念式典のために書かれた。内容は両親の死を悼むもので、3つの楽章のそれぞれのタイトルはカトリックの死者のためのミサから取られている。内容的に祝祭にふさわしくないということから当時は演奏されなかったが、この時の各国への委嘱作の中では最大の名作として知られる。

 ベルクのヴァイオリン協奏曲は、マーラーの妻アルマが建築家ヴァルター・グロピウスと再婚してもうけた娘マノンの死を悼んで書かれたが、完成して間もなくベルク自身も死去、結局自身にとってのレクイエムにもなってしまった。後半で引用される清々しいコラールが胸を打つ。独奏は並みいる優秀な若手の中でもいち早く才能を開花させ、着実に歩みを進める山根一仁だ。

 オネゲルの交響曲第3番「典礼風」は大戦終了直後に作曲された。こちらもブリテン作品と同様に、3つの楽章のタイトルのそれぞれが、カトリックの死者のためのミサから取られている。社会における人間の抑圧、戦争の惨禍と恐怖、そしてそこからの解放と慰めが感動的な筆致で綴られる。

 いまこの時にも、戦地では無数の別れが生まれているに違いない。平和への祈りを込めて耳を傾けたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年5月号より)

第360回 定期演奏会 
2023.5/10(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
https://www.cityphil.jp