3つの顔を持つ鬼才が放つドイツ音楽の王道
オリ・ムストネンが初来日したのは1990年。ピアノに向かうと、左足をぶらぶらさせながら拍子をとる奏法に驚いたものだ。彼は昔からベートーヴェンがアイドルだという。
「昔から光であり導き手で、神のような存在でもあります。でも、ベートーヴェンはとても人間的で喜怒哀楽のすべてを曲に映し出した」
一方、J.S.バッハの音楽も愛奏し、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」とショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」を組み合わせて斬新な録音も生み出している。
「バッハとショスタコーヴィチは研究するほど魅了されていく。以前、パリで組み合わせて演奏したときショスタコーヴィチの未亡人が見え、温かなことばをかけてくれました。バッハの未亡人は姿を現しませんでしたけどね」
こんな冗談も飛び出す。ムストネンの父親は統計学者で、ムストネンも幼いころから数学好き。一時は数学者になろうと思ったとか。現在は、ピアニスト、作曲家、指揮者の3つの活動を展開している。以前の来日公演では、自作のコンチェルトを披露したが、親友であるチェロのスティーヴン・イッサーリスやヴァイオリンのジョシュア・ベル、指揮者のエサ=ペッカ・サロネンとも自作で共演している。
今回のプログラムは得意なバッハとベートーヴェン。ムストネンのバッハはまさに数学的で分析型のクレバーな演奏。ベートーヴェンは人間らしさをにじませるヒューマンな演奏。唯一無二のユニークなピアノは必聴だ。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2023年3月号より)
2023.4/20(木)19:00 武蔵野市民文化会館(小)
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp
他公演
札幌交響楽団 第652回定期演奏会
4/22(土)、4/23(日) 札幌コンサートホール Kitara(札幌交響楽団011-520-1771)