ギターは武満徹という作曲家の個性どころか人柄までをも映し出す楽器ではなかろうか。冒頭の「フォリオス」からビートルズの編曲に何の違和感もなく移行。懐かしのメロディーがフラジオレットの描き出す星の煌めきに接続し、ポップソングを妖しい闇の雰囲気が包み込む。ギターという楽器を通じてそれらに形が与えられる際に現れる一つの気分、木の葉が舞うように空間に消えていく音色のもののあわれに、“武満なるもの”を感じずにはいられない。谷辺昌央は深い呼吸と正確なテクニックで、作品像を一点の曇りなくシャープに描き出した。楽器と共に音楽を抱きしめているようなぬくもりを感じる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年12月号より)
【information】
CD『フォリオス 武満徹・ギター作品集/谷辺昌央』
武満徹:フォリオス、ギターのための12の歌、すべては薄明のなかで―ギターのための4つの小品―、森のなかで―ギターのための3つの小品―、エキノクス、ギターのための小品―シルヴァーノ・ブソッティの60歳の誕生日に―/レス・リード&バリー・メイソン(武満徹編):ラスト・ワルツ
谷辺昌央(ギター)
コジマ録音
ALCD-7286 ¥3080(税込)