取材・文:編集部
5月21日(土)和歌山県の那智勝浦町、勝浦地方卸売市場でオペラ《蝶々夫人》のハイライトコンサートが開催された。那智勝浦町は、全国的にも有名な那智の滝、世界遺産の熊野那智大社などの観光地、また源泉数が和歌山県一の温泉地としても知られる風光明媚な街。そして、はえ縄漁法による生まぐろの水揚げが日本一を誇る。釣り上げてから冷凍することなく、生のまま競りにかけられる市場は国内でも珍しいという。その市場に一日限りの特設ステージを設営して行うオペラコンサート。今回は昨年に続き2回目となる。
しかし、これは決して話題づくりのための奇をてらった催しではない。那智勝浦町を中心とした実行委員会が、地域活性化を目的とし、兼ねてから野外での公演の実績を重ねているさわかみオペラ芸術振興財団の協力を得て開催している。同財団は、「日本にオペラ文化を広め、多くの人々に心の贅沢を味わっていただき、それが人生の豊かさにつながっていく」という理念のもとに、イタリアを中心とした海外から演奏団体を招聘し、姫路城や名古屋城、平城京大極殿など、歴史的名勝地でオペラ公演を開催している。また、若い芸術家の活動支援や教育活動も積極的に行っている。
会場となる市場周辺には、無料で入れる足湯や、地元の特産品や本場のまぐろを味わえるお店が並んだにぎわい市場が隣接している。当日は、あいにくの天候ながら地元を中心に300名を超える観客が訪れた。
ステージ後方はすぐに海、接岸されている漁船も見えている。港町長崎を舞台にした《蝶々夫人》にはお誂え向きのロケーションだ。プログラムは2部構成で、前半はオペラの名曲と日本歌曲。休憩を挟み後半が《蝶々夫人》。出演は、梨谷桃子(蝶々夫人)、前川健生(ピンカートン)、野間愛(スズキ)、上田誠司(シャープレス)、篠宮久徳(ピアノ)。仮設ステージはシンプルながら畳も敷かれ、ピアノ伴奏とナレーション付きで《蝶々夫人》の世界を演出していく。会場は風が吹き抜け、遠くからトンビやイソヒヨドリの声が聞こえてくる。開放的な空間ではあるが、適度に傾斜した市場の天井に歌手の生声が実に心地よく響く。
オペラコンサートは梨谷らの迫真の演技で幕を閉じる。緊張から解放され客席からは大きな拍手が沸き起こる。カーテンコールで出演者は、幾度もステージに呼び戻された。そして拍手が収まり終演を告げるアナウンスが流れると、再び会場に拍手が起こった。この公演への満足と感謝の気持ちの表れだろう。終演後に幾人かの観客に感想を聞くと、
「本当に素晴らしかった!歌が好きなのでいつか私もステージで歌ってみたい」
「自分たちが大事にしているこの場所で行ってくれたのが素晴らしい」
「今度は海外の歌手も呼んでほしい。次回も楽しみにしている」
と早くも次回への期待も。
財団の理事長を務める澤上氏は「これからの日本の経済成長や地域活性化には芸術文化の力が不可欠。それに地元の人が面白がって参加して盛り上げていくことがとても重要なのです」と熱く語る。笑顔で会場を後にする観客たちの背中から、来年のさらなる盛況が見える思いがした。
那智勝浦町
https://www.town.nachikatsuura.wakayama.jp
公益財団法人さわかみオペラ芸術振興財団
https://sawakami-opera.org