取材・文:池田卓夫
1972年9月28日、山形交響楽団は現創立名誉指揮者の村川千秋の指揮で第1回定期演奏会を行った。村川は山形県村山市出身で米国から帰国後、「故郷の子どもたちに本物の音楽を届けたい」との一心で山響を設立、各地の学校を自身の運転で回りながら音楽県の土壌を築いた。今回も指揮したシベリウスは、何度もフィンランドに通って研究を重ね、山形の寒い冬に合わせて定期演奏会にかけるなど、長く傾倒してきた作曲家だ。2022年4月16、17日、山形テルサホールの第300回定期の前半を担った89歳の村川はシベリウスの「交響詩《フィンランディア》」「《カレリア》組曲」を指揮。舞台袖から姿を現すと聴衆、楽員の全員が温かな拍手で迎え、山形の人々に愛され続けたマエストロの実態を物語る。振り始めた瞬間、山響が北欧の乾いて透明な響きを奏で、それぞれの主題がくっきりと浮かび上がる。何と温かく、大きな音楽なのだろう。指揮者とオーケストラではなく、家族のような連帯感で彫り込んだ響きが深い感動を呼び起こした。
後半は現在の常任指揮者、阪哲朗によるR・シュトラウスの「歌劇《ばらの騎士》」抜粋。阪は京都出身だが、両親は山形県人という縁があり、山響との共演歴は2000年以来20年を超える。マルシャリン(元帥夫人)マリー・テレーズ(林正子)、オクタヴィアン(小林由佳)、ゾフィー(石橋栄実)の二重唱、三重唱とワルツなど管弦楽の聴きどころを切り取った約1時間のハイライトでマルシャリンのモノローグも、オックス男爵の歌も割愛。前後半でコンサートマスターの正副が替わった(前半が首席コンマスの犬伏亜里、後半がソロ・コンマスの髙橋和貴)には訳がある。バイエルン人シュトラウスがウィンナ・ワルツの要素を巧みに採り入れたスコアの再現に当たり、ウィーンで学んだ髙橋のリード(ソロも!)は力を発揮した。同じくドイツ語圏のカペルマイスター(楽長)経験が豊かな阪はタクトを持たず、全身を駆使した融通無碍な指揮で10型(第1ヴァイオリン10人)のオーケストラから流麗で豊穣なサウンドを引き出し、山響が獲得した実力の素晴らしさだけでなく、未来への確かな希望を伝えた。4月の新国立劇場の全曲舞台上演でオクタヴィアンを4回歌ったばかりの小林のこなれた歌唱、マルシャリンを持ち役とする林の安定感、ゾフィーを初めて歌う石橋の初々しさと三者三様の歌唱の対照も演奏に奥行きを与え、オペラのマエストロ阪の真価を遺憾なく発揮した。
カーテンコールの最後に再び村川が現れ、阪と2人で公演成功の喜びを分かち合う姿を楽員、聴衆が万感の思いで見つめていた。
【今後の公演】
さくらんぼコンサート2022 東京公演
2022.6/22(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
さくらんぼコンサート2022 大阪公演
6/23(木)ザ・シンフォニーホール 19:00
恒例の山形物産展も開催、山形県産のさくらんぼのプレゼント企画もあり、
クラシックとともに“YAMAGATA”の魅力が詰まったコンサート!
指揮:阪哲朗
ヴァイオリン:神尾真由子
プログラム
木島由美子:山響創立50周年記念委嘱作品
ラロ:スペイン交響曲 作品21
バルトーク:管弦楽のための協奏曲 BB 123
問:山響チケットサービス023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp