「心の支えであり、困難を共に乗り越えて来た大切な存在」。桐朋学園大からベルリン芸大修士課程に学んだ俊才ピアニストの守重結加は、シューベルトの作品をこう位置付ける。甘く切なく、時に刹那を愛おしむ、魅惑的なる調べ。最晩年…とは言っても、まだ30〜31歳の青年作曲家がしたためた佳品へ向き合う、守重の眼差しは常に優しい。そのプレイはffにあっても決して音を荒らすことなく、変幻自在のタッチで一つひとつの音やフレーズ全体の表現やバランスに気を配り、そっと寄り添ってゆく。澄み切った演奏空間の残響も音楽の一部へ採り込み、シューベルトの“心”を届けてくれる。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2022年4月号より)
【information】
SACD『シューベルト:即興曲集 D899、ピアノ・ソナタ第21番 D960/守重結加』
シューベルト:即興曲集 D899、ピアノ・ソナタ第21番 D960
守重結加(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCT-00194 ¥3520(税込)