最終章は楽団の轍とリンクする感動的な選曲で
グループ名の由来はラテン語の「verus(真実の)」。結成16年目、屈指の実力を誇るウェールズ弦楽四重奏団が2019年から開催してきた全6回のベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲チクルスも残すところあと2回。いよいよ最終章を迎える。プログラミングが興味深い。
2月の第5回は“始まりと終わりと真ん中”。全16曲中で最初に作曲された第3番は、同時に出版された作品18の6曲の中でも際立って革新的な作品。いわば未来志向であるのに対して、第16番は、弦楽四重奏の歴史を変えた後期の作品群の最後に、懐古的でシンプルな書法を志向した印象がある。2曲のベクトルが互いに向き合っているのが面白い。そして中期の「ラズモフスキー」3曲の中でも真ん中の第8番。
この第8番はウェールズが日本人の四重奏団として東京クヮルテット以来38年ぶりの上位入賞(3位)を果たした2008年のARDミュンヘン国際音楽コンクール決勝で弾いた思い出の曲なのだが、3月の第6回にも、彼らの里程標ばかりが並んでいる。
コンクール後に日本での活動を休止してバーゼルに留学した彼らが、ハーゲン・クァルテットのライナー・シュミットのもとで最初に学んだ第2番。帰国後に初めて取り組んだ第5番。そして06年にグループを結成した彼らが発した第一音が、第12番冒頭の変ホ長調の和音だった。
彼らが全身で取り組んだ初めてのベートーヴェン全曲。そのゴールを客席で共有したい。
文:宮本明
(ぶらあぼ2022年2月号より)
※3/13(日)の公演は、出演者が新型コロナウイルス感染症の陽性と確認されたため、2022.5/8(日)に延期となりました。(3/5主催者発表)
【Ⅴ】2022.2/12(土)
【Ⅵ】3/13(日)[延期]5/8(日)各日14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
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