ライナー・ホーネックは、ベートーヴェンの後期四重奏曲の深淵な世界から、弦楽合奏版で表現の振幅を広げ、新たな魅力を引き出した。冒頭フーガの声部の絡みが透けて見えるような精緻な響きは美しく、合奏能力の高さを裏付ける。薄明から浮かび上がるような繊細な第2楽章も、変幻自在な変奏が繰り広げられる第4楽章もとてもいい。第5楽章スケルツォは強弱くっきりメリハリよく、第7楽章奇怪な冒頭動機の展開はさらに奇怪さを増す。全体に迫力十分で、シンフォニックな高揚感がある。「セレナータ・ノットゥルナ」では、生き生きとスピード感があり、団員による独奏陣が精妙に対話する。実に楽しい。
文:横原千史
(ぶらあぼ2022年2月号より)
【information】
SACD『ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番、モーツァルト:セレナータ・ノットゥルナ/ホーネック&紀尾井ホール室内管』
モーツァルト:セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」、ヴァイオリンと管弦楽のためのロンド 変ロ長調、同ハ長調/ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番(弦楽合奏版)
ライナー・ホーネック(ヴァイオリン)
紀尾井ホール室内管弦楽団
収録:2011年9月、2019年4月、紀尾井ホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00769 ¥3520(税込)