上原彩子(ピアノ)

2つの人気協奏曲でアニヴァーサリーイヤーを飾る

(c)武藤章

 第12回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第1位を獲得して以来、進化し続けるピアニストの上原彩子。2022年にデビュー20周年を迎えるにあたり、20年から3年計画のリサイタルを行っている。22年2月に開催される最終回では、チャイコフスキー国際コンクール以来の、1公演で2曲のピアノ協奏曲の演奏に挑む。曲目は上原を語る上で欠かせないチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、そしてラフマニノフのピアノ協奏曲第2番だ。管弦楽は原田慶太楼指揮の日本フィルハーモニー交響楽団。

 「チャイコフスキーは人生で一番多く演奏してきた曲ですが、弾くたびに発見がありますね。ラフマニノフは30代に入ってからよく演奏するようになりました。初めて弾いたのは20代の頃でしたが、あまりうまくいかなかったこともあるんです」

 ずいぶん意外な言葉が出てきたが、それにはこんな理由があるという。

 「ラフマニノフは技術的に難しいのはもちろん、オーケストラの響きが厚いので音量も必要ですし、オーケストラとのアンサンブルが難しい。一方、チャイコフスキーはオペラのプリマドンナになったような気分で、オーケストラにのせてもらえる部分がとても多いのです。ラフマニノフは、自分が引っ張りつつ、オーケストラを“支える”ことが必要で、距離感を掴むのに一時期苦労しました。でも、経験を重ねていくうちにそのやりとりがすごく楽しくなってきて。私の弾き方一つでオーケストラの音色も変わっていくのがとてもよくわかるんです」

 実際に対面してみると、ステージの印象とはずいぶん違って小柄な上原。常に会場に美しく響き渡る音色の秘密はどこにあるのだろう。

 「音をピアノから“引き出す”ことを意識して、響かせることは大切にしてきました。同じ音量でもよく通る音とそうでない音がありますし、和音のバランスでも変わってきます。常にどうすれば会場の皆様に届く音を出せるのか。それは人一倍考えていると思います。この20年で弾き方もずいぶん変わりましたし、軽い筋トレやランニングをするなど身体づくりは意識的に行うようにしています。10代の頃、ロストロポーヴィチから“運動はしないとだめだよ”と言われて、その時はピンとこなかったのですが、最近、その言葉の意味がよくわかります」

 記念すべき年を迎え、一大プロジェクトに挑む上原だが、これからも歩みを止めることはない。今後は新しい曲やあまり取り上げてこなかった作曲家を積極的に取り上げ、新たなレパートリーに挑戦するという。2022年以降の上原の活動から目が離せない。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2022年1月号より)

上原彩子 デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!
2022.2/27(日)14:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp