マーラーの大曲、オペラ全曲、そして新鋭指揮者登場と、ファン垂涎の新シーズン
東京フィルの2022シーズンラインナップが発表された。1月より全8回の定期演奏会が開かれる。災禍を乗り越える希望の新シーズンの幕開けだ。指揮者陣では名誉音楽監督のチョン・ミョンフンが3回にわたって登場するのが目をひく。ほかに特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフ、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ、ベテランの井上道義、若手の出口大地の名が並ぶ。出口は21年のハチャトゥリアン国際コンクール第1位の新星だ。
1月の開幕公演はチョン・ミョンフンがマーラーの交響曲第3番を指揮する(22.1/21, 1/23, 1/25)。もともとは2020シーズンに予定されていたプログラムだが、大編成のオーケストラに独唱と合唱が加わる記念碑的大作だけに新シーズンの幕開けにふさわしいプログラムだろう。アルトは中島郁子、合唱は新国立劇場合唱団と東京少年少女合唱隊。マーラーは「交響曲とはすべてを包括する世界のようなものでなくてはならない」と語ったが、交響曲第3番はまさしくその言葉にふさわしい壮大な作品だ。
2月は井上道義が登場する(2/24, 2/25, 2/27)。プログラムはエルガーの序曲「南国にて」、大井浩明独奏によるクセナキスのピアノ協奏曲第3番「ケクロプス」(1986)日本初演、ショスタコーヴィチの交響曲第1番。22年はクセナキスの生誕100年である。井上と大井といえば、クセナキスのピアノ協奏曲「シナファイ」におけるかつての共演が語り草となっているが、今回の日本初演も聴き逃せない貴重な機会となる。ショスタコーヴィチの交響曲はマエストロの十八番。
3月はミハイル・プレトニョフがスメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲を指揮、コロナ禍により延期されたプログラムが実現する(3/10, 3/11, 3/13)。チェコの歴史と自然を題材とした交響詩だが、ロシアの名匠はどのような解釈でこの名曲に取り組んでくれるのだろうか。
5月はチョン・ミョンフンによるフランス音楽プログラムが組まれた。曲はフォーレの組曲「ペレアスとメリザンド」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲、「ラ・ヴァルス」、ドビュッシーの交響詩「海」。精緻なオーケストレーションが施された作品が並んでおり、東京フィルの壮麗なサウンドを堪能できるにちがいない(5/18, 5/20, 5/22)。
6月はプレトニョフによる、シチェドリン編曲の「カルメン」組曲と、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」より。おなじみの「カルメン」がロシアの作曲家シチェドリンにより多数の打楽器群と弦楽器のための作品としてよみがえる。「白鳥の湖」はプレトニョフによる特別編集版(6/8, 6/9, 6/12)。
7月は、21年にハチャトゥリアン国際コンクール第1位、クーセヴィツキー国際指揮者コンクールで1位なしの2位を獲得した俊英、出口大地が抜擢される(7/7, 7/10, 7/12)。プログラムはこんな機会でもなければなかなか聴けないハチャトゥリアン尽くし。バレエ音楽「ガイーヌ」より、木嶋真優独奏によるヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番「鐘」が演奏される。フレッシュだ。
9月はアンドレア・バッティストーニが、自身の編曲によるリストの「ダンテを読んで—ソナタ風幻想曲」を披露するのが興味深い(9/15, 9/16, 9/19)。メインプログラムはマーラーの交響曲第5番。バッティストーニ流のマーラーはいかに。
10月はチョン・ミョンフンによるヴェルディの歌劇《ファルスタッフ》演奏会形式。好色の老騎士ファルスタッフがこらしめられるというシェイクスピアを題材とした喜劇だが、これほど味わい深いオペラもない。歌手とオーケストラのアンサンブルの妙も楽しみ。シーズン最後に最高のごちそうが待っている(10/20, 10/21, 10/23)。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2021年12月号より)
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
https://www.tpo.or.jp
※2022シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。