成熟したオーケストラの味わいを存分に届けたい
第12代の常任指揮者として京都市交響楽団を牽引してきた広上淳一が、常任指揮者としてのファイナルコンサートを東京でも開催する(11/7、サントリーホール)。広上が同楽団の常任指揮者に就任したのは2008年4月。両者は15年に「第46回サントリー音楽賞」を受賞しているが、その時の選考理由には「広上淳一が常任指揮者に就任してからの京都市交響楽団は驚異的な能力の向上を遂げ(以下略)」とあり、同じ年に広上とともにヨーロッパ・ツアーを成功させるなど、日本を代表するオーケストラとして着々とその実力を蓄えていったことが分かる。
しかし、広上は就任当時を振り返りながら、こう語る。
「実は、オーケストラを改革するとか、その実力を引き上げてやるとか、力んで乗り込んでいったわけではなく、僕のような者にもお声がかかったのなら、とりあえずしばらく付き合ってみようか、というぐらいの気持ちでした」
指揮者とオーケストラの関係は、外野からはなかなか見えにくい。付き合い始めたばかりの恋人同士と同じ、と言ったら不謹慎か。
「しかし、僕が行って4年ぐらいたった時期に、ベートーヴェンの交響曲第4番を振る機会があって、この曲の第4楽章というのはプロのオーケストラにとってもかなり難関なのだけれど、そこをいとも易々とクリアしていた。僕がボソッと『このオーケストラ、才能があるのだけどな…』と呟いたのが、楽員の耳に入った。それをきっかけに、急に意思疎通がスムーズになって、オーケストラが反応してくれるようになった。京響はもともと高い実力を持っていた訳ですが、自分たちでもそれを発揮する仕方を分かっていなかったのかもしれない。だから、僕が彼らの実力を上げたのではなく、潜在していたオーケストラの力がようやく発揮される時期に、たまたま僕が常任指揮者で居た、ということなのだと思っています」
広上はそのオーケストラとの関係を「微熱の愛情」という不思議な言葉で表現した。
「愛情表現というのは難しいよね。特に個人と団体の場合は、団体が置かれている環境を含めて、どう付き合っていくかが問われることもある。オーケストラの場合は、コンサートに来ていただくお客様のことも考えなければいけないし。それも含めて、あんまりアツアツにならない関係性が築けたことが大きかった」
その広上&京響がサントリーホールで演奏する曲目はベートーヴェンの交響曲「第5番」とマーラーの交響曲「第5番」というドイツ・オーストリア音楽の王道だ。
「これも、僕の誕生日が5月5日だから、というのは冗談だけれども、いまベテランから若手まで、素晴らしい奏者を揃えたオーケストラである京都市交響楽団に、もっともふさわしい2曲を選んだつもりです」
広上時代の14年間の総決算というより、いま、まさに花開いた魅力あるオーケストラの香りを、たっぷりと堪能したいコンサートである。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2021年11月号より)
京都市交響楽団 東京公演
広上淳一 京響常任指揮者ファイナルコンサート in 東京
2021.11/7(日)14:00 サントリーホール
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://www.kyoto-symphony.jp