エストニアの作曲家ウルマス・シサスクは、天文学と音楽の結びつきを創作の土台としている。左手の名ピアニスト舘野泉との出会いで、同国の地名を冠した6楽章の「エイヴェレの星たち」が生まれ、2015年に同地で録音された。天体の観察や計算で得られた音程や調で構築されたとのことだが、転調は限られた範囲で、バロックや古典の趣きもあって聴きやすい。モティーフの繰り返しと少しずつの変化や起伏にはミニマル的な要素もあるが、それ以上になんとも瞑想的、吸い込まれるような陶酔感さえある。舘野の語り口は訥々としながらも雄弁で、音が澄んだ北天に溶けていく様が目に浮かぶよう。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年10月号より)