ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

若き感性が生み出す清新なマーラー


 耳を洗うような「大地の歌」への期待に胸が高鳴る。これまで交響曲第1・3・5・6・7番が披露されたインキネン&日本フィルの『マーラー撰集』。来る11月は、交響曲と歌曲の醍醐味を兼ね備えたこの曲が登場する。
 当シリーズは、シベリウスのレア作品との組み合わせも妙味。今回は「歴史的情景 第1番」と組曲「ベルシャザールの饗宴」が耳を楽しませる。前者は「フィンランディア(の原曲)」を含んでいた愛国的作品からの抜粋で、後者は北欧の抒情と異国趣味が混じった珍しい音楽。何れも親しみやすい上、地元出身のインキネンとその演奏の伝統息づく日本フィルが奏でるシベリウスは、まさしく真髄と呼べるだけに、魅力を満喫できること必至だ。
 そしてインキネンは、混沌や絶叫とは一線を画す新たなマーラー像を描いてきた。それは、緻密に構築された楽節が確固たる歩みで運ばれ、複雑な構成が見通しよく解明されながら、熱気やテンションも充分な表現。その解釈は回を追うごとに説得力を増している。となれば、厭世感と清澄さが同居した独特の曲想をもち、歌の付いた6楽章の構成が難儀な「大地の歌」では、これまで以上に清新な感性溢れる名演が期待される。しかも今回は、アルトではなくバリトンを起用。イタリア在住の実力者・西村悟(テノール)、マーラー歌曲の第一人者・河野克典(バリトン)とソロも文句なしだ。
 インキネン&日本フィルは、このところ一体感をグンと強めている。来年秋の首席指揮者就任に向けて、今回はいっそう強固なコンビネーションで魅せるに違いない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年10月号から)

第675回 東京定期演奏会
11/6(金)19:00、11/7(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp